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 手嶋くんのあの発言から、彼と隣の席になってから大分時間が経った。手嶋くんと結構話すようになったのではないかと思うが、相変わらず彼の周りには人が多いのでその中での一番にたどり着くまでは遠い。少しずつ近づいていければいいかな。そんな風に思っていた。
 そんな思いがとあるクラスメートの一言でぐらぐらと揺らぐ。手嶋くんには気になる女子がいる。それがもしかしたら、と一瞬だけ淡い期待を抱いた。私も結構図々しい奴になっていたようだ。でもそんな期待はあっという間に砕けた。手嶋くんはバレー部の岩瀬さんが気になっているようだ。クラスメート達が勝手に盛り上がっているだけだったら何とか平静を保つことができたかもしれないが、その後そこにやってきた手嶋くんがそれについて特に否定をしなかったのでああ、そういうことなんだって落ち着いた。落ち着いた、なんて言っておいて全然落ち着けてはいないんだけど。
 そっか、手嶋くんはああいう子が好みなんだなあ。岩瀬さんの顔をぼんやりと思い起こす。そして、むなしくなる。何にしたって私が岩瀬さんになれることはないのだ。手嶋くんと距離が縮んできていると思っていたのは私だけだったようだ。手嶋くんはとりあえず、クラスメートで、隣の席の私を構っていただけ。別にクラスメートだから普通と言えば普通なのかもしれない。でも普段男子と話すことのない私には特別なことだったのだ。朝練の後に教室に駆け込んできた手嶋くんにおはようって言ったり、こちらに落ちてきた消しゴムを拾ってお礼を言われたり、反対に私の落としたシャーペンを拾ってもらったり。買った期間限定のお菓子をあげたりもらったり。手嶋くんが甘い物が好きだと知ったのは席が近くになってからだ。私がちょっと近づいて知った手嶋くんのことを、他の女の子は当然の様に知っているのかな。
 私はもやもやしながら手嶋くんの隣で授業を受けた。もやもやし過ぎて私は足下に落ちてきた手嶋くんのシャーペンに気づけなくなっていた。手嶋くんは笑ってくれたけど、それに対して私は下手くそな笑みを浮かべることしかできない。今日に限って手嶋くんが隣から離れる授業がなくて私はぎくしゃくしながら黒板とノートをひたすら見つめた。こんな時にも手嶋くんのことをちらちらと見てしまう自分が情けない。
 授業もホームルームも終えたので帰るべく身支度を整える。相変わらず彼は部活で忙しいようだ。手嶋くんはドタバタと荷物を詰めたかと思えば、教室から出ようとする。出ようとしたが、こちらを向き足を止める。忘れ物でもしたのだろうか。
「苗字、また明日な!」
 手嶋くんは軽く手を振り、今度こそ教室から去った。
 何度かしたことのあるやり取りのはずなのに、私の心臓がうるさくなる。残念なのは私が返事をする前に彼が去ってしまったことだ。岩瀬さんとか他の女の子が気にならないと言えば嘘になるが、私は手嶋くんとなんてことのないやり取りを一つずつ大事にしていきたいと思った。明日は私からおはようって言うことができますように。

20141204