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「#エロ」のBL小説を読む
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 最近日本に受け入れられてきたとはいえ、さすがに制服のある高校でド派手なコスプレをしてくるような人はいないようだ。そのかわり、教室はバレンタインデーに次いで甘い香りで満たされていた。私もそれの原因のものを持っていた。
 トリックオアトリート、そんな言葉を添えながらクラスメートはお菓子を配り歩いている。本来ならそれはもらうときに言うはずなのだが正直私たちは楽しむことさえできればなんだっていいのだ。自由な時間が長いこともあり昼休みの今、一番盛り上がっている。私も彼女からパウンドケーキを受け取る。それに私はかぼちゃのマフィンをお返しする。こういうイベントで主に盛り上がる女子の分は用意してあるからおそらくこのペースでも間に合うだろう。それ以外にも余分には持ってきてあるが、おそらくこういうイベントに乗じた調子のいい男子の腹に収まるのだろう。作ったマフィンがはけてくれる分にはお菓子をくれない人にあげるのも構わない。久々にお菓子を作るいい機会になったことだし。美味しいって言われなくたって、いやそうな顔で食べるようなことがなければいいのだ。今お菓子を配り歩いている女子達も私と似たようなことを考えているのだろう。そんな子達が多いから、たくさんのお菓子をもらうことになった。うーむ、食べるのが楽しみだけど体重計から遠ざかりたくなる事態になりそうだ。もらったお菓子の一つでもあるスイートポテトをつまむ。うん、やっぱりこの季節はお芋とかかぼちゃがおいしい。
 スイートポテトを頬張りつつ隣の席に目をやったが、そこに本来いる人はいなかった。チャイムが鳴るなり部活のミーティングがどうのと言って教室を後にしたのだ。やっぱり主将は忙しいんだろうなあ。私は帰宅部だからそういうのはさっぱりだ。手嶋くんは運動部で、中でも有名な自転車競技部だから今日みたいな日にお菓子を食べたって体重がすぐに増えたりなんてしないのだろう。そういえば、手嶋くんってチョコのお菓子つまんでるのを見かけるけど甘いのが好きなのだろうか。せっかく隣の席になれたのに、私の勇気が足りないせいで相変わらず手嶋くんについて知らないことが多すぎる。今日も、もしかしたらとか考えたけど肝心の彼は席を外しているし。言い訳ができたので、ありがたくないと言えば嘘になるのだが。
 そんな風に縮こまっていたら、昼休みが終わる十分ほど前に手嶋くんは教室に戻ってきた。そのまま誰かと話すわけでもなく彼は席に着く。別に隣の席だからってむやみやたらと話しかけるわけでもない。いつも手嶋くんから話しかけてくるのに答えるのにいっぱいいっぱいだ。あ、目が合った。と思ったら手嶋くんは私の机の上に広がるお菓子達に注目している。いつもこんなに食べている食い意地の張った奴だと思われていないだろうか。
「あ、ハロウィンか」
「うん、そう。ハロウィン。みんなすごいお菓子作ってきてるの」
「苗字も作ってきてんの?」
「あ、一応」
「へー」
 手嶋くんの相槌によって一旦会話は途切れてしまう。このままだと昼休みは終わってしまうし。これじゃあいつも通りだし、せっかく距離が物理的に近づいたのに何の意味もない。
「えっと、手嶋くんさえよければもらってくれるかな」
 結構たくさん作ってきちゃったから、ほとんど持ち帰るのもあれだし。とあくまでも好意を押し出さないようには注意しつつの提案。声が震えてしまったが色々ばれてはいないだろうか。……いや、手嶋くん、驚いてないか。大して親しくもないクラスメートの手作りのものなんて食べられないとかそんな風に思われているのかもしれない。どうしよう、いきなり踏み込みすぎてしまったかな。
「え、いいの?」
 手嶋くんの反応は私の思考に対してシンプルなものだった。一瞬何のことだかわからなくなりつつあったがなんとか頭の中を整理して、鞄の中に入っていた一番丁寧に包装されたマフィンを取り出し、手嶋くんへと渡す。準備する際ラッピングをするか、タッパーに詰めるだけにするか迷ったのだがちゃんとしておいてよかった。一瞬手が触れたときはどうしようかと思ったがその動揺は悟られずに済んだみたいだ。
「サンキュー、部活の後食べるわ」
 こちらこそありがとう、そう言いたかったのだが始業を告げるチャイムの音とやたらと早く来た先生によってそれは遮られてしまった。もう少し話したいとも思ったが、贅沢も言っていられなかった。手嶋くんに小さいものの一歩近づくことができた気がする。それだけで頬に熱が集まってくるのがわかった。多少、かなり邪な感情だけどイベント事に便乗してよかった。そんな感想を胸に抱きつつ、私はまだ万全ではない授業の準備に取り掛かった。

20141028