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 冬も深まりクリスマスも近い今日この頃、私たちは次のデートについて話していた。ちなみにチョロ松くんとのデートは次で5回目である。本当は一日中一緒にいられればよかったのだが、残念なことに当日お互いに夕方まで外せない用事ができてしまい、その日のデートは夜からの待ち合わせとなった。チョロ松くんと夜から会うのは何だか新鮮だ。
 ご飯を食べる前に、少しだけ何かをしたいなあと思ったのだが、どうしたものか。冬の夜、というワードで頭に過ぎったので「イルミネーションが見たいなあ」と言ったらチョロ松くんは小さめの黒目を丸くさせた。いやだったのかなあと思って改めて尋ねると「いや、イルミネーションを改めて見るなんて今までなかったから、ちょっとびっくりしただけだよ」と何故か少し頬を赤く染めながら返された。その後もチョロ松くんはぶつぶつと何かを言っているようだったが、私の耳には入ってこなかった。見ている限り彼がいやがっているわけではなさそうなので、そこまで気にしないことにした。結局私の希望は通り、その日は街のイルミネーションを見てからご飯を食べることになった。

 彼に会う日は、それまでの時間が長く感じられる。一緒にいる時間がそうなればいいのに、なんて考えながら電車に揺られ、待ち合わせ場所へと向かう。指定の時間より少し早めに待ち合わせ場所である駅の時計台に着いたのだが、そこには既にチョロ松くんがいた。私に会いたくて急いでくれたのなら嬉しいなあ。私と目が合った彼が笑顔を浮かべてくれるだけで私は十分に幸せなのだけど。
「行こうか」
「うん」
 私達の目当てのイルミネーションは駅から少し歩いたところにあるのだが、そこまでの道のりでも私達と同じ目的の人がちらほらと見かけられる。いざその場所に着くと、平日にもかかわらず大分混雑していた。関係者らしき人が道の誘導まで行っている。その人混みの中に加わり、何とか人の波を交い潜りながら、歩いていく。イルミネーションを堪能したかったのだがこの状態だと難しそうだ。こんな状況では何か光っているなあぐらいにしか思えない。はぐれないためにも手を繋ぎたいなあと思い、彼の方に視線を向けたつもりだったのだが、私の視界にはチョロ松くんが映らない。どうやらはぐれたようだ。まずい、早めに連絡を入れようと、鞄に入っているスマホを取りだそうとしたのだが後ろから押されて、身体のバランスが崩れて転んでしまった。
 さっきまで周りにいっぱいいた人たちは、私が転んだ瞬間何か結界ができたみたいに私を避けて歩いていく。転んだ奴に関わりたくないのだろう。まあ、踏まれるよりはマシだけど。暗くてあまり怪我の状態が見えないからか、驚きの方が大きかったのか、強く打ったはずの膝の痛みが感じられない。しかし、立ち上がることもできない。先程まで人の間を縫うのでいっぱいいっぱいだったので余裕がなかったのだが、今は周りに人もいないからと顔を上げる。多分今一番目的であったイルミネーションをよく見ることができているのだがこんなボロボロな状態で電飾をこらされた木々を目の当たりにしたところで光っているなあぐらいの感想しか抱けない。私はこの光景をチョロ松くんと見たかったのに、何でこうなってしまったのだろうか。

「なまえちゃん!」
 うなだれていると、今日ずっと考えた人の声が頭上に掛かる。目の前には息を切らせたチョロ松くんがいた。必死に私のことを探してくれたのだろう。おそらく見つかってよかった、と言いたかったのだろうけど私の膝元を見て驚いた彼の語尾は頼りなく、聞き取ることができなかった。ここで初めて自分の怪我が大分ひどいことに気付いた。何だか痛くなってきた気もする。彼は私と目線を合わせるためしゃがんでくれたのだが、とても申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめんね、こんな怪我までさせちゃって……もう君がいるんだからカップル見てイライラする必要なんてないのにね」
 まだ色々、抜け切れてないみたいだ。やっぱりまだあいつらと一緒みたいだ。などとチョロ松くんは言葉を続ける。あいつら、というのは多分兄弟のことだろう。まだ話しか聞けていないからよく知らないのだけど、チョロ松くんはチョロ松くんだよ? と伝えたらお礼の言葉を述べられた。

 私の怪我をどうにかするべく、私達はこの場を去ることにした。結局イルミネーションを楽しむことはできなかったが、チョロ松くんが隣にいてくれるなら構わない。
「なまえちゃん、立てる?」
「う、うん」
 さっきは立てない、と思ったのにチョロ松くんに手を貸してもらった途端に足が軽くなったような気がするから我ながら現金だと思う。
「どうしよっか、とりあえず怪我の手当てしないとだし。どこか休めるような場所…………ごめん! 何でもない!」
 彼は先程とは打って変わって真っ赤な顔をして謝罪する。そんな反応をされてしまってはいやでも、いやじゃないけどそんなことを考えてしまう。正直、そんなことへの期待をしていないと言えば嘘になるし、そういう準備もしてきた。イルミネーションを見てロマンティックな気分になって、という目論見からは外れてしまったが。
 ここから少し逸れたところにホテル街があるのを以前友人に聞いたのだが、彼も多分、それを知っている。腕を絡ませ「ねえ」と耳元で囁くとチョロ松くんはわかりやすく動揺した。
「……足、痛いからもう歩けない、かも」
 チョロ松くんはごくり、と生唾を飲むが何も言葉を発しなかった。それでも彼の足は、私の想像通りへの方向へと進んでいく。さっきのイルミネーションよりも、ホテル街のネオンの方が輝いているような気がした。