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 本格的に寒くなる前に、コートとかを一式揃えたいなあと思ったので少し大きめのショッピングモールに行くことにした。去年買ったちょくちょく毛玉の目立つコートを羽織り、いざ出発と勢いよくドアを開けると何かにぶつかった。その何かの正体は彼氏であるカラ松くんだった。額を抑えて悶絶しているため顔はよく見えないがあの特徴的なベルトをしているためすぐにわかった。
「ごめん、大丈夫?」
 私の問いかけに涙を浮かべながらもハニーはお転婆だとか何とか言っているので無視しておいた。ドアを開けるのにお転婆もクソもないと思うんだけど。一応重点的にぶつけたであろう額を見てみても、少し赤くなっているだけだったので大丈夫だろう。
 痛みが引いたのか、カラ松くんはいつもの如くサングラスを装着し、かっこつけだした。そんなカラ松くんは私の装いを見てちょっとそこまで行くのではないことに気づいたようだ。
「なまえ、出掛けるのか?」
「うん。買い物行こうと思ってたんだけど、カラ松くんも来る? ついでに運転してくれるならお茶ぐらいだけど奢るよ」
 職はなくても免許はあるもんね、とは流石に言わなかった。ここに訪ねてきたぐらいだから、暇だと思われるし私の誘いにも応じるだろう。
「ああ、構わない。ただし、俺の運転技術に惚れるなよ」
 余計なことを言ってくるのも想定内だ。でも目的地までは静かにしていてもらいたいかな。道中それに付き合うのも疲れるし。
「はいはい、もう惚れてるから大丈夫だよ」
 そう言うなりカラ松くんは顔を真っ赤にさせながらも大人しくなった。そういうところは可愛いと思う。車に乗り込んでからもカラ松くんは大人しく、目的地までも静かに運転してくれた。カラ松くんはかっこつけだが根っこがヘタレなので安全運転だ。だからお願いしたのだけど。助手席から彼の横顔を眺めるのは結構好きだ。

 ショッピングモールに着いてたくさんのお店にテンションが上がったのか、ようやくカラ松くんは調子を取り戻した。
「カラ松くんどうする? 時間決めてそれぞれで買い物する?」
「なまえと一緒がいい」
「…………そう」
 そこはかっこつけてうだうだ言うところでしょうが。突然素になられると心臓に悪いからやめてほしい。本当はやめてほしくないけど。彼は私の平静を装った相槌に違和感を感じてないだろうか。どうせ気づいてないんだろうな。そこが彼の良いところで悪いところだもの。
「とりあえず最上階から回っていこう」
「ああ、何を買うんだ?」
「コートとか防寒具メインだけど、まずはニーハイブーツかなあ」
 大体ワンシーズンで履きつぶしてしまうから、そこまで高くないといいんだけど。私の言葉にカラ松くんがシンデレラのガラスの靴は云々などと言っているが適当に流す。普通のハイヒールとかならまだしもブーツにガラスの靴は流石に無理があると思う。ショップに入ってもめげずにシンデレラがどうのと言ってくるからむずがゆくて試着してサイズ諸々大丈夫だった無難な黒のブーツに決めてしまった。まあニーハイブーツなんて大体どれも同じ様な物だからいいんだけど。会計を済ませ、店員さんが商品を渡してくる際に当然の様にカラ松くんが受け取る。そこでこちらを見てきて誇らしげな顔をしてくるならまだかわいいものの、何でもないように振る舞うから質が悪い。
 その後別のショップでコートを買っても、予定外の雑貨屋での買い物も、ぜんぶの荷物をカラ松くんが受け取ってしまう。それまではずっと後ろにぴったりくっついてきてしょうもないことを言ってる痛々しいかっこつけなのに、私がそこでの買い物を終えたときだけやたらとスマートなのだ。……一体どこで覚えたんだか。ちょっとだけもやもやする。荷物が増えて、手元が不自由になってもカラ松くんは何ともなさそうにしている。有り難いのだけど、私のしてほしいこととは少しずれているから困る。
 さすがに下着屋までは後ろにくっついてくることはなく、近くにあるベンチに座って待っていた。私が紙袋をぶら下げて戻ってくると、今回は中身が中身なので少し遠慮はしているものの、受け取ろうとするから思わず後ずさってしまった。
「いや、大丈夫自分で持つ」
「……そ、そうだな」
「というか今持ってくれてるのも私が持つしいいよ」
「えっ」
「何その顔」
 カラ松くんはいやとかでもなどと言って今一つ煮え切らない態度だ。どういう教育の賜物かはわからないが男の自分が荷物を持つものだと思っているようだ。そんなカラ松くんは多分、私の考えている行為が思いつかないのだろう。私がずっと手を見ていたのにも気づかなかったし。そうだよね。こういうの言わないとわかってくれないもんね。そういうところがかわいいんだけど。
「…………カラ松くんの両手が荷物で塞がってると手が繋げないからいやなの」
 言ってしまった。今頬が赤くなっていることはわかっている。やっぱり予想できていなかったようでカラ松くんも顔を赤くして固まっている。そんな彼をよそに、荷物を奪ったのはいいのだが全部持つと今度は私の手が塞がってしまうことに気づいた。カラ松くんがそうだったのだから自分もそうなるに決まっているのに、そんなことにも頭が回らなくなってしまうからこの感情は厄介なのだ。
「……ごめん、やっぱり半分持ってもらってもいいかな」
「! もちろん」
 私から荷物を受け取る際はスマートだったが手の出し方はぎこちなくて、カラ松くんはカラ松くんなんだなあと一人勝手に納得した。コートやブーツ、他にもあたたかくなるものは買ったけど、彼の手のひらから伝わる温もりには勝てないだろう。