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「#エロ」のBL小説を読む
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 後ろから腕が回される。誰によってかなんて、この部屋には私と彼しかいないからわかりきっている。このお腹に回された腕が、ゆっくり上がってくるから、それをたしなめるまでがいつもの流れだ。
 その、いつもの流れがやって来ない。いや、してほしいというわけではないので別にいいのだが、彼、おそ松くんの腕はいつまでも私のお腹周りにとどまったままだ。後ろで、ん? とかおお? とかしまりのない声を発している。一体どうしたというのか。おそ松くんの手のひらがお腹を何往復か滑ったところで、彼は再び口を開いた。
「なまえちゃんさあ……太った?」
 おそ松くんの言葉に私の身体はぴしりと固まる。次に身体が動いたときには、思わず肘鉄を食らわせてしまった。もちろん、そこまで強くはしていないがおそ松くんは「いってー! 理不尽だ理不尽ー!」などと文句を言っている。女子に太ったなんて、デリカシーのないことを言ったからだ。おそ松くんのばか。まあ、図星を突かれて動揺したからなのだけど。
 おそ松くんの言うとおり、私はちょっとばかし体重が増えた。年末年始にかまけて飲んだり食べたりしていたら、これだ。もう年が明けて何日か、なんて考えたくない。この間お風呂上がりに久々に体重計に乗ったときは思わず頭が痛くなった。
 太るのはあっという間だが、なかなか体重は戻らない。ばれないように、今日はゆったりしたニットを着たりしてみたのだが、こんな風にくっついてしまってはまるで意味がない。あっという間にばれてしまった。肘鉄をしたことによって離れたおそ松くんがごめんごめん、なんて気持ちの入っていない謝罪をしてきたからまたくっついてくる。ふりほどかない辺り私は大分彼に甘いと思う。
「いやでも前よりお腹がぷよぷ……しっかりしてたし」
「ぷよぷよって言い掛けておいて訂正しないで。むかつく」
「ごめんって。ん? でも太ってもこっちにはぜんぜん肉つかないんだな〜。残念」
 彼の手は私の胸を掴んだと思えば、揉んだ。今度は渾身の力を込めて肘鉄してやった。先程の様におそ松くんはまた離れ、今度はお腹を抑えて転がる。今みぞおち入った! などと喚いているが知らんぷりだ。
 胸のこと気にしてるの知ってるのにそういうこと言う?! おそ松くんのばか! デリカシーなさすぎ! 一気に頭に血が上るのがわかる。そんな私を見てもおそ松くんはまだへらへらしている。
「おっぱいより先に腹がボインになりそうななまえちゃんごめんな〜。機嫌なおしてよ〜」
「絶対反省してないじゃん! おそ松くんのばか! もう知らない!」
 このタイミングでまだそういうこと言う? 信じられない! 私何でおそ松くんのこと嫌いになれないんだろう。怒ってるはずなのに、何だか悲しくなってきた。
「ごめんって、なまえちゃんの怒ってる顔かわいーからさ、ついいじわるしたくなっちゃうんだよな〜」
 私の感情の起伏をすぐに悟って、そういうこと言ってくるの本当にずるい。何で彼にはすぐにばれてしまうんだろうか。その言葉だけで風船みたいに膨らんでいた怒りも一気にしぼんでしまうので私はとても単純だと思う。
「! こ、こういうときに可愛いって言うのずるいよ! ばか!」
「馬鹿としか怒れないなまえちゃんかわいーね」
「……な、何度可愛いって言ったって許さないから」
「えー……じゃあお詫びにこの後運動いくらでも付き合うから許して?」
「っ…そ、それおそ松くんがしたいだけじゃん……」
「あれー? 今俺えっちとか言ってないよ? なまえちゃんってばやらしー。大歓迎だけど」
「! う、うるさいなあ……」
「はいはい、じゃあそろそろお互い黙ろっか」
 まだまだ言いたいことは沢山あったのに、口を塞がれてしまってはもう私はどうすることもできない。完全におそ松くんのペースだ。もう、この人を好きになった段階で負けなんだろうなあ。いつになったら勝てる日が来るんだろう。ずっと一緒にいればそんな日も来るのだろうか。あまりあてにはならないが、未来の自分に希望を託すことにした。