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 なまえと唇を重ねながら棘は考えていた。なまえとの交際を始めて三ヶ月ほど経ったところだから、もう少し彼女と踏み込んだことをしてみたいと。棘は自分が普通の男子高校生と比較したらそういう欲求は少ない方だと思っていたが、どうやら違ったようだ。
 踏み込んだことをしてみたいと思っているものの、いきなりなまえを押し倒してどうにかしようとかそこまでの発展は望んではいないらしい。今なまえとしている、触れるだけの口づけから脱却したい。具体的に言うと舌を入れてみたいようだ。
 ただ、それには問題があった。なまえには唇を重ねる際に緊張からか口を固く閉じる癖がある。その状態でねじ込むのは難しそうだと棘は判断した。まず、なまえの口を少しでも開かせないといけない。
 普通ならなまえに口を開けるように言えば解決なのだが、棘に限ってはそれは不可能だ。彼は呪言師で、紡ぐ言葉すべてに力が宿る。そのため、日常でもトラブルを招かないように語彙をおにぎりの具のみに制限している。正直な所、今棘がなまえに口を開けるように力を使っても問題は起こらない。なまえはなまえで棘に呪言で無理矢理言うことを聞かされたりしたいなどと思っている。それぐらい棘に求められたいと思ってはいるものの、察しがよろしくないので彼は奥手だと勘違いしている。そして棘自身の、大事にしている恋人には呪言を使いたくないという意地から、この膠着状態が発生した。
 棘は言葉を発さずになまえに口を開けてもらう方法を考えているが、なかなか妙案が浮かばないようだ。何度か唇をくっつけたところで一旦棘がなまえから離れた。棘はなまえが唇を開いてくれないかな、と願いを込めつつ唇をくっつけていたがどうやら祈りは通じなかったみたいだ。
 棘は不服そうに眉を寄せながら、なまえの唇に指を這わせた。

「高菜」
「リップ変えたの気付いた? べたべたする?」
「おかか」
「気付かなかったかー」

 彼はなまえの変化には気付いていたが、言いたいことは伝わっていないため否定の意の言葉を放った。なまえはそれを自分の発言に対しての答えと勘違いし、リップクリームについての説明をしだした。
 どうしたものか、と棘は悩む。察しの悪い恋人も可愛らしいとは思うものの、これでは埒があかない。リップクリームの話から、更に別の話をしようとするなまえの口を塞ぐべく、また唇を重ねたらなまえの発言もかき消えたが、彼女の唇も強ばってしまった。この繰り返しが一生続くのではないだろうか、そんな考えがふと棘の頭に過ぎる。さすがにそれは有り得ないだろうと冷静になればわかるが、今の彼はそうではないので焦りが生まれる。
「ツナマヨ」
 また、棘の指がなまえの唇へとのびる。先ほどは下唇を軽くなぞるだけだったが今度は、上唇と下唇の境目を丹念に撫でた。さすがに、いつもと違う彼の行動に驚いたなまえは自分の口元と、棘を交互に目をやるが何か言葉を掛けられることはない。なにかを察せという棘の意図までは彼女にも読めたが、肝心のなにかは全然思いつかなかった。何かを尋ねようにも、口を開いたら途端に口元をなぞる彼の指が入ってしまう状態だ。その状態が意味するものとはとなまえが考えた結果、ある行為に至った。
 
「ほへへひ?」
 唇をなぞっていたはずの棘の指先が、なんともいえない温もりに包まれる。今、彼の人差し指はなまえによって第一関節ほどまでくわえられている。棘も予想外の事態に固まるしかできなかった。なまえは舌足らずながらも自分の行動が正しいかを棘に尋ねたが、彼は今なまえの咥内の温かさやら、驚いた際に触れてしまった舌の感触でいっぱいいっぱいになっている。
「おか……しゃけ」
 なまえの行動は、棘の意図から完全に外れていたが今の彼にはそれを否定する気は起きなかった。口から指を抜き出したなまえは何がよかったの? と照れくさそうに尋ねるが、棘がそれに返事をすることはなかった。
 棘がなまえの予想外の行為に、しばらく悩まされる事になったのは言うまでもない。

 彼の本来の目的は十日ほど経ってから果たされることになる。棘が唇を重ねた後に舌を出して、なまえはようやく察せたらしい。そこから先は割と難なく進んだとか、いないとか。