text log | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
 これを見つけたとき高峯くんのことを思い出した。見せたらゆるキャラ好きを名乗る彼なら喜ぶだろうと考えてからこれを手に入れるまでの時間はさほど掛からなかった。想像ではない彼の反応を見るのが楽しみだ。
 翌日の放課後、ある物を抱えて少し急ぎ足で教室に向かうとエナメルバッグに荷物を詰める彼がいた。まだ教室にいるのなら一安心だ。もう教室には人もいないし、すぐにいなくなるだろうと思ったので気を遣うこともなく中に入る。彼にそれが見えないように隠すことは忘れない。高峯くんはまた楽しくないことを考えているのか俯いていて私が近づいても気がつくことはない。
「高峯くん」
「……苗字先輩、どうも」
 声を掛けたら少し驚かれたが、ちゃんと挨拶は返してくれた。少し時間あるか尋ねたらこの後部活があるからいくらでも大丈夫ですとのことだ。文脈がおかしいぞ高峯くん。部活だったらそんな時間とるわけにもいかないよね。大したことでもないし手短に済ませてしまおう。
「そんなに時間は掛からないけど、見せたい物があるんだ」
「見せたい物……?」
 本当だったら後ろに隠しているものを差し出して終わりなのだがそれだと何だかつまらない気がする。時間が掛からないと聞いてあからさまにショックとでも言いたげな顔をする高峯くんを見ていたら、私の悪戯心が急にむくむくと膨らみだしたのだ。びっくりさせたいから目を瞑ってとお願いしたらちゃんと目を閉じてくれる高峯くんは何だかんだで素直で可愛い後輩だと思う。
 目を閉じた高峯くんの前に、ある物を差し出す。ここまで引きずる意味があったのかはともかく、私が高峯くんに見せたいと思った物の正体は採血くんのパペット人形だ。彼のゆるキャラ好きを知ったきっかけがそれだったので印象に残って、今回の行動に至ったのだ。
 いたずらと言っても何をすればいいのだろうか。ひなたくんやゆうたくんならここであっと言うようなことができそうだが私は彼らとは違うのでアイディアなんてまるで出てこない。パペットでできること……パペット……そういえば、幼少期にそんな感じのCMをみた記憶がある。全部は覚えてないけどとある行動は思い出すことができる。私は高峯くんにそれをすることにした。
 高峯くんに採血くんを接近させる。目的を達成するまで私のたくらみを悟らせないように、ゆっくり、じりじりと距離をつめる。それをするのは採血くんだけど、そのためには私もそこそこ近づかなくてはならないので、高峯くんとの距離が狭まるので緊張する。採血くんと高峯くんの唇との距離がゼロになるのと彼の目が見開かれるのはほぼ同時だった。
「っ?!」
 高峯くんはあっという間に採血くんから退く。採血くんを目にしたら喜ぶと思っていたから驚かれるのは想定外の反応だ。何するんすか、という高峯くんの声にたどたどしくも「うばっちゃった」と採血くんを動かしながら答えてはみたが正しくない気がする。断片的な記憶だけでやったからあのCMの具体的な流れなんて覚えてないのだ。というか、私でもほとんど覚えてないぐらいだから高峯くんこのCMのネタがわからないのかもしれない。そうなると変なことに付き合わせてしまったな。ちょっと申し訳ない。高峯くんは手の甲で口元を抑えたかと思えばみるみる顔を赤くさせた。き、気まずい。
「高峯くんに見せたかったのこれだったんだ。あげるからこの後の部活がんばってね」
 早口でまくし立て、彼に採血くんを押しつけて教室を去ろうとするが呼び止められてしまう。さすがに無視をするわけにも行かず、振り向くと私の口元が何ともいえない質感の物体で遮られる。それが離れて視界がクリアになったかと思えば、先程の私のように採血くんを手にした高峯くんがいた。
「……お返し、です」
 今の私は高峯くんと同じぐらいの顔色をしているだろう。同じことをされて初めて気づいたが、これはめちゃくちゃ恥ずかしいその、なんていうか、ごめん。私の謝罪の言葉はあらゆる感情で渦巻く頭の中で漂うだけで高峯くんに届くことはなかった。