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 色々考えることはあったが学科の人達が割としているのを見て案外どうにかなりそうだと思った。鬼龍先輩にお願いしようと思ったのは、衣装などを手がけているため手先が器用で、且つそれが他の人よりも多くあって慣れていると思ったから、というのが表向きな理由で、根っこは不純な感情によるものだ。刺繍に一区切りついた先輩にピアッサーを差し出すと手には取ってはもらえたものの困ったような顔をされた。
「……嬢ちゃんには必要ないと思うんだがな」
「五個もしてる鬼龍先輩に言われても説得力ないですよ」
 そう返せば鬼龍先輩は何も言わなくなってしまった。私の押しに負けたのか、溜息をついた先輩は椅子を指さし座るように促した。きっと妹さんのわがままもこんな風に聞いちゃうんだろうなと思うと羨ましい。
 言う通り椅子に座ると先輩が隣に来たので思わず身体がこわばる。ピアスを開けるから、近づくなんて当たり前だ。今の段階でこんなのじゃ困る。そもそもお願いしたのは私だし、しっかりしないと。
 そう思ったそばで、髪の毛に触れられて顔に熱が集まる。私の羞恥心は悟られていないからまだ顔はそこまで赤くなっていないようだ。先輩は考えなしにそういうことをする人じゃないとはわかっているがやっぱり恥ずかしい。悪いが耳にかかるから髪を抑えておいてほしいとのことだ。ちょっと残念とか思ってない。嘘です、思いました。
 髪をかき上げ耳がよく見えるようにすると、私のではない指で触れられる。意識しないようにしても、どちらかといえば温かくて私のとは全然違うごつごつした指で耳朶を、鬼龍先輩に触れられているというのは誤魔化しようのない事実だ。想像以上に私の心臓によろしくないシチュエーションだ。残念とか思ってる場合じゃない。
 思いを寄せている先輩にピアスを開けてもらったら良い思い出になるんじゃないかと思ってお願いしてみたのだが、今ではそんなこと考えた過去の自分も、それを行動に移した自分も憎たらしくて仕方がない。今の私は顔から火が出せる。
「……嬢ちゃん、顔赤いぞ」
「っ!」
 先輩の指摘に先程まで熱くて仕方のなかった顔から一気に温度を奪われた。どうしよう、上手な言い訳がまるで浮かばない。
「怖くなったんだろ。今日はやめとくか」
「え」
 そう言うや否や耳朶から指が離れていき、少し名残惜しいなんて思った自分はなかなかに現金な奴だ。それよりも、脳内の激しい温度差のせいでバグが起こっているのか鬼龍先輩の言葉を飲み込むことができない。つい間抜けな声まで漏らしてしまった。
「そんな力入れて我慢なんかしなくても無理矢理開けたりしねえよ」
 ……鬼龍先輩は、私がピアスを開けることが怖くなってそれを堪えるために力を入れたから顔が赤くなったと思っているようだ。助かったが何だか拍子抜けだ。妹も最初は威勢がよかったのに最終的に萎縮しちまうことがあってななんて聞いてもないことまで教えてくれる。
「嬢ちゃんはほんとうちの妹に似てるな」
 私は貴方に妹が抱くような可愛らしい感情を向けてない、そう反論したかったが先程気持ちがばれているのではないかと怯えてしまった自分に出来るはずもなく、あやすように撫でる手を受け入れるので精一杯だった。私がピアスを開けるのはしばらく先になりそうだ。

2015XXXX