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 ドリフェスで少しでも利益を出すために物販を行うのは珍しいことではない。イベント当日のため、ユニットの人達にお願いするわけにもいかないし、利益を出すための物であるから必要以上に人手を割くわけにもいかないのでそれの売り子をするのは自分だ。会場は人で溢れかえっているので熱気が凄い。ブラウスに汗がはりついて不快ではあるが、お客さんを相手にしているのでそれを表に出すわけにもいかない。
 人をある程度捌き、落ち着いたところで声を掛けられる。その声の主は伏見くんだった。隣には当たり前のように桃李くんがいて、私を見るなり元からきれいなグリーンの瞳が輝く。こうして好意を持って接してくれる子がいるのは嬉しいことだ。拙いながらもプロデュースをやってきた甲斐がある。
「苗字さんは売り子までされているのですね」
「うん」
「そんな必死に働かなくたって、ボクが養ってあげるのに〜」
「あ、はは……」
 さすが生まれたときからお坊ちゃまをやっているだけあって話の規模が違う。養うって。いやちょっと待って。流そうと思ったけど養うって今結構すごいことを言われてないか。天祥院先輩とは別のベクトルでこのお坊ちゃま怖い。御曹司ジョーク怖い。庶民の私には笑って誤魔化すことしかできない。
「そうなると苗字さんはわたくしともずっと一緒、ということになりますね」
 桃李くんの何気ない一言にも動揺させられている私が伏見くんの言葉を受け流せる訳がない。ナチュラルに桃李くんの側にいる宣言いただきました。伏見くんは姫宮家に骨を埋める予定のようだ。これで一生奴隷に困らないね、よかったね桃李くん。……じゃない。何でこの人もこういうことさらっと言えるのか。主従ジョーク怖い。伏見くんのいつもの涼しげな笑顔すら怖い。養うとか、ずっと一緒とか、女子が一度は考えてしまうようなシチュエーションがいやでも頭に浮かんでくる。二人はそういうつもりなんてないから簡単に口に出せるのだろう。こんなにも動じていて悔しいから頬が熱いのは会場の熱気のせいにしてしまいたい。
「なまえ、顔赤いよ? 暑いのに売り子なんてしてるからだよ! そんなのやめてボクのこと抱っこして〜!」
「苗字さんの邪魔をしてはいけませんよ、坊ちゃま」
 ワガママを発動した桃李くんを横目に伏見くんは焼き菓子を求めたと思えば、それを桃李くんの口に押し込んで物理的に黙らせて引きずっていった。あの手口の鮮やかさは誰にも真似できないだろう。でも今よりももっと彼らといたら、と考えてしまった自分はしばらく二人の言葉に悩まされることになりそうだ。

2015XXXX