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「#エロ」のBL小説を読む
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 今日は縁日で、普段は人もまばらで味気ない場所も多種多様な屋台とそれに誘われた人たちで埋め尽くされている。私と鬼龍先輩もその中の一部だ。当たり前のように差し出された手が嬉しい。人が多いため、すれ違う際にたびたびぶつかってしまうがそんなことも気にならない。
 人の波をかいくぐり、ようやくたどり着いたのが綿菓子が売られている屋台だった。甘い香りに興味を示していると先輩は綿菓子を一つ買い私に渡してきた。お礼を述べて、綿菓子をかじると口の中に甘みが広がる。これを食べて祭りに来たという実感が強くなる。甘い物を摂取したせいで頬が緩んでいたのか「美味いか」と尋ねられる。
「おいしいです。やっぱりお祭りに来たって感じ出ますね」
 綿菓子から口を離して返事をすれば先輩は「そうか」と相槌を打つ。そこまでで終われば何てこと無かったのだが、あろうことか先輩は私が手にしていた綿菓子をかじってきたので固まってしまう。先輩は「やっぱり甘いな」とこぼすが私は顔を赤くすることしかできなかった。この人はこうやって時々距離を詰めてくるからずるい。
 屋台をいくつか巡ってある程度満足したので、一旦人混みから離れることにした。先輩は私に疲れていないかと気遣ってくれる。付き合う前から知ってはいたが、やっぱりこの人は優しい。
「そういえば、今日浴衣じゃないんだな。女の子はこういう日に着たがるものだと思ってたんだが」
 先輩の指摘に服装に注目されていることを実感して思わずドキッとする。当たり前だけど気合い入れてきて良かった。
「ほ、本当は着ていくつもりだったんですけど着付けしてくれるはずだった親が外出してたのでこうなっちゃいました」
「そうか、言ってくれりゃやってやれ…………いや、何でもねえ」
 ありがたい提案が投げかけられたと思ったのに、すぐに撤回されてしまった。そうか、先輩はユニットの衣装があれだから和服の着付けもできるのか。しかしなるほどと思った途端にさっきの先輩の台詞だから今一つ状況が飲み込めない。
「え、私それ聞いていいなって思いましたよ。そうですね、たしかに先輩にお願いすれば良かったです」
「…………」
 気まずそうにしているが先輩は頭を掻くだけで言葉を発することがない。もしかして変なことを言ってしまったのだろうか。
「わ、私もしかして失礼なこと言いましたか?」
「……いや、嬢ちゃんは悪くねぇ。変な事考えちまっただけだ」
 変、とはどういうことだろうか。着付けにそんなおかしいところがあったっけ。普段親にしてもらう光景を頭に浮かべてみても特に問題はない。……いや、ちょっと待って。これ、いつも親にやってもらうことだったから気にかけたことがなかったのだが接触が多い。こう、割ときわどいところまで触ったり、触らなかったり、見られたりする。先程の態度から察するに先輩も言い出してから気づいたのだろう。私もそこで流しておけばよかった。今となっては自分の好奇心が恨めしい。私が恥ずかしくなっているのに気づいたのか、先輩も先程以上に居心地が悪そうだ。辺りが暗いからちゃんとは見ることはできないが先輩の顔も赤くなっているのはわかる。
「せ、せんぱい、飲み物買いに行きませんか」
「……そうだな」
 空気に耐えきれなかったので、この場を離れることを提案したら先輩も同じ気持ちだったのか受け入れてくれた。こんなに気恥ずかしくても手を繋がないという考えに至らないのを嬉しいと思ってしまう。これはもう、仕方がない。さっきよりお互いの手の温度が熱くなったと感じるのは、私の思いこみではないはずだ。

2015XXXX