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「#エロ」のBL小説を読む
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 行事の多い学校だと思う。イベントが終わったかと思ったらまた次の企画が動き出す。私が生徒会に向かっている理由もそれだ。次の企画は自分がプロデュースしているユニットに白羽の矢が立ち、色々と考えていたらなかなかに規模が大きくなりそうだと生徒会に相談したら何と協力してもらえることになったのだ。まだ私は全ての事情を知っている訳ではないが、少し前では考えられないことだと皆が口を揃えて言うからすごいことなんだと思う。
 今日はその企画書を確認してもらい、許可をもらうのが目的だ。手元の書類におかしな点はないか、確認しながら生徒会室へと向かう。おそらく問題はないだろう。生徒会室の戸を叩けば、入室を促す声が耳に入ってきたのでそれに従う。
「失礼します」
 生徒会室には蓮巳先輩しかいなかった。珍しい、いつもだったら桃李くんが出迎えてくれるのに。静かな生徒会室は何だか珍しい。
「……苗字か」
 蓮巳先輩の視線は書類から私へと移される。少し肩に力が入りながらも先輩に目的である企画書を差し出す。
「はい、企画書の確認お願いします」
 企画書を渡すと先輩はそれに目を通す。確認している間、お互いに口を開くことはない。一通り企画書を読み終えたようだが蓮巳先輩の表情からは、何を考えているかがわからないから緊張してしまう。
「……大丈夫だろう。このまま英智に渡しておく」
「! ありがとうございます」
 企画書に蓮巳先輩のサインが施される。これで天祥院先輩のサインも貰えば企画が通ったことになる。まだ完全に認められたというわけではないが少しだけ肩の荷が下りた気分だ。蓮巳先輩曰く、天祥院先輩は明日には企画書に目を通せるとのことなので、実質動けるようになるのは明日になりそうだ。企画が動きだすと忙しくなるからと、今日はユニットの皆も休みにしてあるから、これ以上やることもない。鞄も持ってきているから後は帰るだけだ。
「じゃあ失礼します」
「……苗字、帰るのか」
「そうですね、特に学校でやることがないので」
 私の言葉に蓮巳先輩は考えるような素振りを見せた。何か問題でもあるのだろうか。もしかして生徒会の仕事を手伝わせようとも思っているのだろうか。天祥院先輩が用事で今日不在なのはわかったが、他のメンバーの所在は教えられてないから相変わらず私にはわからないし、帰ってくる気配もない。蓮巳先輩の机には書類と思しきものがたくさん積まれているし、やることがたくさんあるのだろう。書類らしきものと蓮巳先輩の間で視線を行き来させていると先輩は私の考えを読みとったようだ。
「貴様にあれを押しつける必要性などない。俺一人でも片付く」
「あ、そうですよね。じゃあ、今度こそ」
「……この間、流星隊の南雲と図書館にいただろう」
 蓮巳先輩の口から予想外の人物が出てきた。鉄虎くんと図書館にいた日、といえば二人で古文の勉強をした時のことだろう。あの日、蓮巳先輩も図書館にいたのか。まあ、私と鉄虎くんよりも図書館が似合う人だからわからなくもないが。
「ああ……そんな日もありましたね」
「赤点などと何やら不穏な単語が聞こえたんだが」
「あ、あれは鉄虎くんの話ですよ……」
「貴様も赤点だったとか言ってただろう」
 ばれている。あの時何だかんだで声大きかったもんなあ。ばれましたか? などと軽く笑ったりしたら間違いなく馬鹿にしているのかと説教コースに突入するのは目に見えている。蓮巳先輩の方を見ているようで、明後日の方向を見てこの状況の打開策を考えてみたもののまるで浮かばない。そんなだから赤点取るんだ、たぶん関係ない。ぎこちない笑みを浮かべたまま固まっていると、先輩は溜め息をつく。
 私はどうなってしまうのだろうか。プロデューサーである私が赤点をとるなんて腑抜けていると怒られてしまうのだろうか。結局説教じゃないか。先輩は他の役員のと思われる座席を指さす。座れということだろう。……説教が長引くから? などと思い浮かべた自分が恨めしい。怯えつつも席に座ると先輩に「古文の教科書は持っているか」と問われた。今日はちょうど古文の課題が出ていたので持ち帰っていたのだが、それを言ったら課題がなかったら持ち帰らないのかと鋭い指摘を受けそうだったので「はい」とだけ答えておいたが相変わらず話の流れは掴めないままだ。
「……プロデューサーである貴様に学業で躓かれるのが不都合なだけだ」
 私から古文の教科書を取り上げ、ページを捲る先輩は何故か言い訳するように呟く。正直、あまり意味はわからないが蓮巳先輩が古文を教えてくれるということなのだろう。ありがたいことだ。いつもより課題が捗りそうだ。


「よくこれで人で教えるなどと言えたな……」
「返す言葉もございません…………」
 とりあえず出された課題をやってみたのだが、蓮巳先輩はその不出来っぷりに驚いている。いたたまれなくなって「もういいですありがとうございます」と切り上げようとしたら何かに駆られたのか「最低限は出来るようになるまで付き合う」とのことだ。蓮巳先輩の言う最低限とはどこまでだろうか。最低なのに高そうな気がするなんて頭の悪そうな文章が頭に浮かぶ。
「いいな、よく聞け」
 眉を顰めながらも蓮巳先輩は教科書を見ながら丁寧に解説してくれる。付きっきり、ということもあるが授業よりもわかりやすい。そんな先輩の解説を聞いているとある点に気づく。それに意識をとられていると課題再開の指示に反応が遅れてしまった。
「……どうした」
「あ、いや、蓮巳先輩って怒ってないときの声は普通に優しいんだなあって思って」
 空気がぴしりと固まるのがわかった。あ、これは普段私が怒らせなきゃいいって言われるパターンの奴だ。この後来るであろう先輩の言葉に身構える。
「……よく聞けと言っただろう」
 意外にも先輩の口調は強くない。どうやら怒ってはいないようだ。よく聞いてたからそう思ったんですよ! と主張したかったのだが、教科書に視線を向け、そして喉元に手をやる先輩を見て、何でかはよくわからないがそれはやめておこうと思った。
 再び課題に取りかかってみると、先輩の解説のお陰であまりつっかえることなく問題を解くことができた。正直言うと、先程までは誰かが来てくれないかなと思っていたのだが、気づけば今日はもうこのままでいいかな、とも思えてきた。私と違って頭のいい蓮巳先輩なら理由がわかるのだろうか。自分なりに考えたら、先輩と答え合わせをしてみたい。

2015XXXX