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「なまえちゃんはもうやった?」
 柚宇ちゃんはゲーム雑誌をぱらぱらとめくりながら話題の新作ゲームのタイトルを述べた。
「ううん。予約しなくても大丈夫かなー、って踏んでたんだけど手に入らなかったの」
「えー、ほしいソフトは予約が鉄則だよ」
 柚宇ちゃんの視線は雑誌から外れない。うーん、もうすぐあれ出るからこれ買っちゃおうかなあ、などぶつぶつ言いながら吟味を続けている。柚宇ちゃんはゲームが好きだ。私は柚宇ちゃんが好きだ。柚宇ちゃんが好きだから、私はゲームをするようになった。ゲームをすれば、柚宇ちゃんともっと話題が共有できるかもしれない。それが上手になれば、もっと柚宇ちゃんと遊ぶ機会が増えるかもしれない。我ながら、単純な思考回路でここまで来たと思う。本当は、自分でするよりも、柚宇ちゃんがしているのを見ている方がずっといい。よく柚宇ちゃんは学校では携帯ゲームをやっているが、そのときのいつもの雰囲気と変わった真剣な目つきとか、滑らかに動く指とか、本当すてきだ。
「じゃあさ、うちでやる?」
 今日はボーダーのお仕事ないんだぁ、ゆるめの口調ながら柚宇ちゃんは衝撃的な発言をした。何度か私の家には来たことはあるが、彼女の家にお呼ばれされたのは初めてのことで、とても動揺してしまった。
「えっと……いいの?」
「部屋そんなきれいじゃないけど、なまえちゃんならいいかなぁって」
 柚宇ちゃんは、私がほしいと思っている言葉を何でもないみたいに、簡単に口にする。それが私は嬉しいけど、複雑にもさせられる。私が柚宇ちゃんのお誘いを断るなんて、そんなことあり得ないから、放課後柚宇ちゃんのお家におじゃますることになった。

 いつもだったら、柚宇ちゃんがこの辺りでじゃあボーダーのお仕事があるから、とかじゃあうちこっちだから、と告げてその後ろ姿をぼうっと眺めているのだが、今日はそんな必要もない。柚宇ちゃんと肩をずっと並べられることがとても幸せで、柚宇ちゃんの話をたびたび聞き逃してしまうなど、普段では考えられないようなことをしてしまうほど、舞い上がっていた。
「ついたよ」
 柚宇ちゃんは数歩先に出たかと思えば、扉を開けて私を手招きする。この先で、柚宇ちゃんが生活しているんだ。私はそこに今から、足を踏み入れるんだ。
 入ってすぐに柚宇ちゃんの部屋へと案内された。柚宇ちゃんの部屋は、柚宇ちゃんのにおいがする。部屋は言ってた通り、整頓されてはなかったが気になるほど散らかってはなかった。それよりも、今朝着替えたのであろ部屋着らしきものが無造作に置かれていることにひどく興奮してしまった。どうしよう、今の私はなんだか変な気がする。
 平静を保とうと思っても、辺りを見渡す限り、柚宇ちゃんに関するものしか見あたらないし、目を瞑ってみても、ここは柚宇ちゃんの匂いでいっぱいだし、どこまでものぼせてしまう一方だった。柚宇ちゃんは、ベッドに腰掛けると、その隣を叩き、私の名前を呼ぶ。
「なまえちゃん、おいで〜」
 部屋で腰を掛けるところが、そこしかなかったから、この子は何の気なくそんなことを言ったのだろう。頭の隅ではそういう考えも存在していたのだが、私の思考回路は自分の都合のいい方へと解釈してしまうほどには低落しているようだ。

 今私の下には、柚宇ちゃんがいる。柚宇ちゃんは押し倒されているのに、別段驚いた様子は伺えない。この子は、私がどうしたいのか知っててこのような態度をとっていたのだろうか。色々考えすぎて、どうすればいいのかわからない。柚宇ちゃんは笑みを浮かべると、私の背中に、腕を回す。
「なまえちゃんなら、いいよ」
 この子は、どこまでも私を舞い上がらせるのが上手だ。この子になら、どんなに踊らされてもいい。