text log | ナノ
 純太くんの家にお邪魔した。まだ暖房に頼るほど寒くはないのだがさすがに今日の気温に対して頼りない格好だったので身体をさする。そんな私を見た純太くんは自分のパーカーを貸してくれた。純太くんのパーカーは普段着ている物よりもおおきくて、袖から指が申し訳程度に出たりしている。純太くんがその様子を見て「いいな、それ」とか笑うから恥ずかしくなった。純太くんが飲み物を取りに行って一人になったのでなんとなく、部屋を見渡す。ベッドが視界の中心になって気まずくなったからそこから視線をそらした。どうすればこの気まずさから抜け出せるのかとぐるぐると考えた結果、ベッドを背にして座ることにした。たぶん、これなら純太くんにも変な奴だと思われないはずだ。自分の手をほとんど隠している純太くんのパーカーが視線を下ろして目に入ってきたことによって一旦落ち着かせたはずの思考が再びぐらぐらするのがわかった。純太くんの部屋にいるからあまりわからなかったのだが、このパーカーも純太くんが普段身に付けていることもあって彼のにおいがする。そんな思考回路をぐちゃぐちゃにするような物を安易に受け取ってしまった過去の自分をどうにかしてやりたい。
「何百面相してんの」
 ぐるぐるとしていたら純太くんが部屋に戻っているのに気づくのが一瞬遅くなってしまった。何でもないよ、と誤魔化せばそっかと何ともなさそうに流してくれた。純太くんはたまに何がどうかと言わせたりしようとすることがあるから今回も、と身構えたがそうではなかったので安心した。
 純太くんが持ってきてくれたのはホットミルクだった。私が寒そうにしていたからあたたかくなるようにとそれを選んでくれたのが嬉しかった。純太くんも飲み物を片手に私の隣に腰を落とす。ホットミルクを口にしようとして、ある考えが浮かんだ。
「ティータイムだ、とか言わないんだね」
「……なまえが飲んでるの、茶じゃないじゃん」
「じゃあ次はお茶のみたいって言ったらやってくれる?」
「……それでも、やらないからな」
 つまんないの、そう言えば面白くなくて悪かったなと拗ねてしまった。ちょっと恥ずかしそうにしていていつもはかっこいい純太くんがかわいい。さっきまで私が抱えていた羞恥心諸々はどこかに行ってくれたようだ。薄い膜が張っているミルクを口にすると蜂蜜が入っているのに気づいた。純太くんのさりげない気配りが大好きだ。
 マグカップの中身が空になるころには身体もあたたかくなっていた。あたたまった途端眠気に誘われてしまうなんて私は随分単純な奴だ。眠そうだなー、という純太くんに素直に頷いて肩にもたれかかる。寝るならベッドにしとけよと促されたのでその通りにした。すると隣に純太くんが来たので反射的にぴしりと固まってしまった。純太くんはそんな驚かなくても取って食ったりしないってと笑う。小さな声で今はなってつけたしたの聞き逃さなかったからね。でも純太くんが宥めるように頭を撫でてくれるのが心地よくて私はこの後どうなってしまうのかと不安になりつつも眠気に勝つことができなかった。起きたら純太くんに食べられちゃうのかなあ。せめて夢の中では純太くんとゆっくりできますように。目の前に純太くんがいるのにもかかわらずそんな贅沢な願いを抱いて私は眠りに落ちた。

20141013