text log | ナノ
「剣城くんって時々何言っているのかわからないよね」
 ドリンクを手渡しながらなまえ先輩はそう述べた。それは初めての指摘だった。しかし思い起こしてみると心当たりがまったくないという訳ではない。今までも自分の発言に疑問符を浮かべられたことは何度かある。自分の形相、あるいは性格のせいかそういったことを言われることはなくやり過ごされることが多かった。なまえ先輩とは仮にも交際をしている間柄だからか見過ごせなかったのだろう。
「それだといざという時困ると思うよ」
「ならどうしろって言うんですか」
 オレの問いになまえ先輩は少し考えるような素振りを見せた。この人はよく考えなしに行動して躓くことが多い。そして表情がすぐに変わる。今もオレでは似合いそうにない効果がつきそうな笑顔を浮かべたかと思えば目を輝かせた。心なしか何か企んでいるように見える。こんなにわかりやすくて良いものか。
「これから私相手に練習すればいいと思う」
「……帰っていいですか」
「なんでよ!」
 理由なんて言わなくたってわかるだろう。面倒だからだ。しかしなまえ先輩は理由を言っても言わなくてもオレを解放しそうにない。それだったら適当に付き合って満足させた方がよっぽど楽だ。単純ではあるが機嫌を損ねたら面倒だ。後これでオレが雑にあしらって他にこの人の気まぐれに付き合わされる奴が気の毒だからだ。それ以上でも以下でもない。
「じゃあなまえ先輩が言うこと決めてください」
「いいの?」
 オレが応じるとは思わなかったようでなまえ先輩は目を丸くさせて驚いた。だがすぐに先程のように目を輝かせた。その上気分が高揚しているからか頬が赤くなっている。とっとと終わらせてしまおう。

「剣城くんが私のことどう思っているか言ってほしいなあ!」

 予想以上に面倒な物がオレにのし掛かってきた。対してなまえ先輩はへらへらと相変わらず気の抜けるような笑顔をこちらに向けてくる。なまえ先輩の言葉をそのまま返そうとしたのだがあらかじめ釘を刺されてしまった。
「あ、あと私が聞き取れるまで帰さないからね」
 この人は唐突に強情になる。笑っているはずのなまえ先輩の真意が今一つ読み切れない。できるだけ早急かつ穏便に済ませたい。
「……嫌いじゃない」
「ごめんね、聞こえなかったみたい」
 顔を背けるこの人が先輩じゃなかったらどうなっていたことか。先輩方に色々立てついた頃があるとかないとかは今は思い出すべき問題ではない。くそ、これじゃ納得できないとかこの先言うことのハードルが随分と高くなる。早急に済ませたい気持ちは今も変わらない。言うしかないのか。……こうなればもうヤケだ。
「好き、です」
「…………き、聞こえなかった」
 嘘をつくな。今一気に顔が赤くなったろ。これ以上オレに何を言わせたいというのか。いつもわかりやすい彼女の思考が読めないのは何故なのか。
「もう剣城くんは言葉じゃなくて態度で意志を示さないとだめだね」
 顔を真っ赤にさせたなまえ先輩にユニフォームの裾を掴まれる。ようやくなまえ先輩がオレにどうしてほしいのかが何となくではあるがわかった。掴んだ手ごと抱き寄せたらようやく「剣城くんの気持ちがわかった」とオレの腕の中で満足そうにした。蓋を開けてみればただそういう気分だっただけじゃないか。何が言いたいのかわかりづらいのはアンタの方だろ。そんな文句も聞こえないと誤魔化されてしまいそうだ。

title:女子会
20150318