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※成人済み設定※
 翼さんはサッカーの才能だけではなく容姿にも恵まれている。昔はその容姿を利用することをあまり好きではないと思ってたのだが大人になってからはそうも言っていられなくなったようだ。ここ最近ではサッカーをしているとき以外の翼さんをテレビで見かけるようになった。今も隣に翼さんがいるのにもかかわらず、テレビの画面に映る彼を眺めている。
 ふうん。翼さん、このブランドのコマーシャルに出てたんだ。前そんな仕事が決まったと聞いたような、聞かなかったような。それにしてもこの共演者のモデルさん、演出とはいえ距離感がおかしい気がする。翼さんを見る目が女のそれだ。私が翼さんをそういう風に見ているから同じ様な物には結構鋭いのだ。
 最初の頃はそういった人にも嫉妬をして、翼さんに呆れられたこともあったけど今はそこまで目くじらを立てることもなくなった。翼さんは私が嫉妬する度に馬鹿な奴だと意地悪そうに笑うのだ。意地悪そう、というか実際かなりいい性格をしているのだが。そしてちょっとだけ堪える言葉を私に浴びせてそのあととびっきり甘やかしてくれる。それの繰り返しをしていたら私のお腹の中にあったもやもやがなくなって、新しくできることもなくなった。翼さんも自分のでているCMに気づいたのか、わざとらしくテレビの方を指さしながら口を開く。
「あ、そのモデルさ」
「うん、見られる仕事してるだけあってやっぱりきれいだよね」
 なんて、私ってば何様のつもりなんだろうね。笑いを誘うつもりでいってみたのだが翼さんはそんな私の意図とは反してつまらなそうにこちらを見ている。いつもの意地悪な顔じゃなくて、ご機嫌斜めな奴だ。私がこうなったとき、翼さんにどうしてもらってたっけ。ぽすん、と頭に手を置きゆるやかに撫でてみても翼さんの機嫌は直りそうにない。そんなんで誤魔化せると思ったんだ? と腕を掴まれてしまい状況が更に悪化した気がする。コマーシャルの二人ぐらい、それ以上に顔が近い。翼さんが何で機嫌を損ねたのか見当がつかないから私はこの人にばかだと言われてしまうのだ。まだ呆れられてしまうのだろうか。それはいやだなあ。
「なまえって俺がモデルとお近づきになってるのにそんな余裕にしていられるような奴だったっけ」
「……翼さんとずっと一緒にいたから似たんじゃないんですかね」
 ごまかすように目をそらしても、視線が突き刺さってくるのがわかる。顎を掴まれ、また翼さんの方を向かされる。
「そういうのいいって。俺、なまえがやきもち焼いてふてくされるの、可愛いから結構好きなんだけど。何にも思わないわけ?」
 翼さんはずるい。こんな風に何年経っても私の気持ちを揺さぶってくる。全然慣れることが出来ない。大丈夫だと思ったのに途端にもやもやが訪れてきて、でも翼さんに可愛いとか好きとか言われたから嬉しいしで、何ともいえない気持ちが頭の中をぐるぐるしている。
「……翼さんってほんと、ずるい」
「サッカーやっていくにはそういうのも必要だしな」
 何とか言葉を絞り出して翼さんを睨みつけると、彼は私と間逆で満足そうな笑みを浮かべながら私の眉間に唇を落とす。「モデルなんかよりなまえとこういう風にくっついていたい」という甘い言葉のおまけ付きだ。こんなことをされたらもう私は間抜けな声を漏らしながら彼のされるがままになるしかないのだ。ようやく余裕のある彼女になって翼さんを見返せそうだと思ったのに、残念ながら私はまだまだ彼に振り回されることになりそうだ。

2016XXXX