text log | ナノ
「カリオストロさんって、生まれ変わりとか信じてたりします?」
「さぁな」
 なまえはオレ様の淡泊な反応が不服だったようだ。本の頁を捲りながら、カリオストロさんなら長生きだしもう会ったことあると思ったんだけどな……と生意気なことを呟いていたのでちょうど手にあった万年筆で突いてやった。なまえが読んでいるのはいつぞや自分も暇潰しにと目を通した、宗教の本だろう。それでこの話題、単純な奴だ。
 自分にとっては大体の奴は馬鹿だというのは大前提だが、なまえという女は特に愚かだと思っている。なまえは自分と初めて顔を合わせてすぐにオレ様が好きだと言い出した。別に自分に惹かれる奴自体は珍しくも何ともない。その理由を尋ねて「見た目ですね!」と毅然と答えられたのには流石に脱力したが。
 好意をストレートにぶつけてくること以外は至って普通の人間で、害はないので使えるときは使っている。それで十分に幸せらしい。殊勝なこった。
 なまえにとって宗教の本は面白いものではなかったのだろう。もう飽きたのか本を閉じ、こちらに視線を寄越した。いつもの調子でつまらない本より自分を見ている方が有意義とか馬鹿なことを言いだすのだろう。
「もしそういうのがあったとしたらなんですけど」
「あ?」
「わたし、何度生まれ変わってもカリオストロさんのこと好きになりますね」
「…………へぇ」
 なまえの言葉は予想外ではあったが、聞き覚えがあった。もしやと思ってはいたが、今度はこいつがそうなのか。

 その台詞と笑顔を初めて向けられたのはもう何百年も前のことだろうか。今のなまえとは性別も、種族も異なることもあったが、こいつはいつもどこからかともなくオレ様に近づいてきて、ある日突然この台詞と間抜けな笑顔を向けてくる。そしていつも、自分よりも先に死ぬのだ。
 オレ様はすぐに気付いてやれるが、なまえにそれを教えたりはしない。オレ様が先になまえに気付いたと知られたら、こいつのことを待っていたみたいで癪だからだ。なまえから言ってくる日が来たら、その時は否定はしないでおいてやるが。
 それにしても、自分がなまえがなまえになる前から幾度となく同じ返事をしてやっているのにもかかわらず、こいつは一向に気付く気配がない。いつになっても、何度生まれ変わろうともお前は馬鹿な奴なんだな。それに苛立ちを覚える自分も、随分と腑抜けになったものだ。