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「なまえちゃんは私のこと、お姉ちゃんって呼びたくないのかな?」
 私には好きな人がいる。目の前で、少し悲しそうにしながら残酷な問いかけをする人だ。私は時々投げかけられるこの質問の答えに、毎回悩まされている。
 ナルメアさんは普段は可愛らしく、とても柔らかな雰囲気を纏っているのに戦闘では頼りになる、とても強い人だ。私はそのギャップに惹かれたのだろうか。正直言うと好きになったきっかけは覚えていない。気づいたらどうしようもなくこの人が好きだった。
 私とナルメアさんは種族は違う。私はヒューマン、彼女はドラフと呼ばれている。性別は同じ女。ただこの広い空の下では種族が異なり、性別が同じなのは大した問題ではないと思っている。
 今一番の問題は、ナルメアさんが私のことを妹のように扱ってくることだ。ナルメアさんより5つほど年下で、グランサイファーに乗るのも遅かった私がナルメアさんの世話焼きの対象になるのはそう難しいことではなかった。
 彼女に押し切られて同じベッドで眠ったことも、背中を流してもらったこともある。正直、普通の姉妹でもこんなことはしないと思う。でも彼女にとってこれらは姉として当然の振る舞いのようだ。他にもしてもらったと言う子がこのグランサイファーには何人かいる。私はその中では年齢が高い方みたいだが。彼女の姉としての行為を受け入れた私は愚かかもしれないが、私はそれを断れるほど人間ができていない。

『ナルメアさんが妹と恋愛できる人なら、お姉ちゃんと呼んでもいいですよ』
 彼女に問われるたびに、喉から出かかる言葉はいっそ吐き出した方がいいのかもしれない。
 別にナルメアさんが求めるように呼んだところで私達が本当に姉妹となるわけではないことはわかっている。ただ、呼んでしまうといよいよあの人が本当に私のことを妹としか見てくれないような気がして、それが怖い。ささやかな抵抗だ。ただ、今のナルメアさんの不安そうな顔を見続けるのは心苦しいので、それを取り払うために彼女が求める言葉をかけたい。

「……そう呼ぶのが恥ずかしいだけです。ナルメアさんのことは、本当の姉のように慕っています」
 嘘だ。貴女のことを姉みたいだと思ったことなんて一度もない。慕っているのは本当だけど、それは貴女の求める意味ではないのだろう。いつかナルメアさんに本当の気持ちを伝えた時、私が貴女を姉みたいだなんて思ったことがないのと、私がずっと嘘をついていたことのどちらに悲しむのだろうか。それを確かめるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「ほんと?」
 よかった、と安堵した表情を見せる今この瞬間は、自分のことだけを考えているんだろうなと思ってしまう私はいい妹になれそうにない。
「……ごめんなさい」
「ううん、いいのよ。なまえちゃんがそう思ってくれるだけで嬉しいから。そんな悲しそうな顔しないで」
 私が謝った意味も、ナルメアさんはわからないんだろうな。当たり前だ。本当はナルメアさんが悪いお姉さんなのかもしれない。宥めるように抱きしめられても、私のざわつく心は落ち着いてくれそうにない。