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 なまえちゃんはそれなりに長い付き合いのある女友達だ。
 僕は女の子と仲良くなってもあの悪魔のような兄たちの所為で本性をさらけ出す羽目になり、連絡が取れなくなるのがお決まりのパターンなのだがなまえちゃんは僕が普段無職で童貞のクズ野郎と知っても変わらずに接してくれた。あの子は僕のことを男としてみていないから、何があろうと仲良くしてくれるようだ。
 今日は僕のアルバイト開始(もうやめたけど)のお祝いだかで、パンケーキで有名なお店に連行された。お祝いだったらパンケーキなんかより焼き肉とか回らないお寿司がいいのだけど、なまえちゃんの行きたいところがここなのだから仕方がない。奢りなので文句も言わない。彼女が僕をここに連れてきた理由にも心当たりがある。
 なまえちゃんは席に着くなり「今の彼氏は甘いもの好きじゃないんだよねえ」なんて言いながらきらきらとした目でメニューを眺める。彼女のせりふを聞き、僕はやっぱり、と思った。彼女が僕とパンケーキを食べたいと言い出すのは決まって彼氏ができて数週間経ってからなのだ。なまえちゃんはクリームをふんだんに使われたパンケーキをつつきながら彼氏の惚気話をするのが好きらしい。これが何人目なのかは、途中から数えるのをやめてしまったから覚えていない。
 そんな話はそういうのが好きそうな女の子の友達とすればいいのに。僕はなまえちゃんの恋人がどう素敵かなんてまるで興味がない。なぜまるで恋バナで盛り上がることのない僕と話したがるのかを以前聞いたことがあるのだが「トド松ちゃんなら、いくら彼氏の話しても彼のこと好きにならないでしょう?」とのことだ。まあ、たしかにそうだ。僕の恋愛対象は女の子だ。どうひっくり返ったってなまえちゃんの彼氏なんて好きにならない。むしろなまえちゃんの彼氏ってだけでどちらかというと嫌いになる。それにしたって、自分の彼氏がどんなに素敵かと話しただけで女友達がそいつに惚れるかもとか考えるなんておめでたい頭だなとは思うが。
 僕となまえちゃんの元にパンケーキが届く。なまえちゃんはキャラメルバナナパンケーキとやらを頼んだようだ。甘ったるそうだ。僕は比較的あっさりそうなベリーソースがかかったパンケーキ。ただそのパンケーキにはなまえちゃんの惚気がトッピングされる。その組み合わせに胸焼けさせられそうだ。そんな僕に対してなまえちゃんはヘラヘラしていて幸せそうにしている。むかつくなあ。
 別になまえちゃんのことが好きって訳じゃない。彼氏に振られて泣いているところにつけこんで、一発ヤってみたいなあってぐらいの感情しか抱いてない。兄弟のことをクズと言えなくなりそうだ。僕はそれだけのために、さして好きでもないパンケーキと、しょうもない女の子による、しょうもない男の惚気を何度も味わっているのだ。他意は、ない。

20180522