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 一人での任務を終え、グランサイファーへと戻るとなまえが騎空挺から降りたという報告を団長からされた。彼女が奏でる旋律の変化に気づいてから、三ヶ月後の出来事だった。彼女がいなくなったことに、みんなも悲しんでいるようだ。私もその一人だ。動揺を隠しつつ自室に戻ることにした。

 私となまえは団長たちの意向で任務を共にすることも多かったので、仲は悪くなかったと思う。任務が終わった後、時間がある時に二人きりになれる場所で演奏をしたりすると、なまえはとても喜んでくれた。私はあの時間が好きだった。
ある日琴を抱えたなまえに、わたしもニオと一緒に演奏ができるようになりたいから教えてほしいとお願いされた。自分は口下手で、教えるのは得意ではないから別の人に教わった方がいいと一度は断ったが、それでもニオがいいと言い切られたので教えることにした。私もなまえと演奏できるようになったらとても嬉しいと思ったから。
 なまえは楽器に触ったことがほとんどなかったのか、演奏自体はとても拙いものだったが、とても大切に楽器を扱っているのは伝わってくる。教えれば教えるほど、なまえと二人で演奏できる日が来るのが楽しみになった。
 なまえの旋律が変わったのは、二人きりで教えるようになってからしばらくしてからのことだ。初めて気づいた時は、体調が悪いのかと思ったが、そうではなかった。誰かと喧嘩したとか、悲しいことがあったとか、色々と思考を巡らせたがどれも当てはまらなかった。変わったのはなまえの、私への感情だった。
 なまえは私と初めて会った時、十天衆に対する少しの畏れと、期待などのさまざまな旋律を奏でた。それは任務を共にするにつれて、畏れの部分が薄まり、穏やかさが大部分を占めるものになった。しかし、ある日を境に、なまえの旋律は大きく変わり、聴いているのが辛くなるものへと化した。
 なまえは自分の旋律が変わった際、ひどく動揺していた。認めなかったり、忘れようとしたり。旋律に逆らうのは、とても難しくて、悲しいことだ。私もそれを感じ取るのは辛かったが、一番苦しいのはなまえだと思うから、気づかないふりをするように努めた。そうしていたらなまえに避けられるようになってしまい、今に至る。
 私は十天衆の一員で、人に憎まれることもそれなりにしてきたのでその旋律を向けられることも慣れている。ただ、なまえからそんな感情を向けられるとは想像もつかなかったので、彼女の旋律の変化に気づいた時はとても悲しくなった。ただ、よく聴くとなまえの旋律はそれに似ていたが彼女のそれはもっと、ずっと、煮えたぎるように熱い別のもののように感じた。そこに悲しみとか、苦しさ、不安とかが混ざり合ってて、痛々しい、ただの恨みとか憎しみとは違う、私が味わったことがない何か。
 なまえの旋律の正体を知られる日はいつか来るのだろうか。

 なまえの事を考えていたら、自室のドアを叩かれる音がしたので、応えることにした。誰が来たのかはわかっている。
「……団長、何の用?」
「なまえさんから預かった手紙があるの。見てね」
 団長は手紙を渡すと、すぐに去っていった。彼女もなまえがいなくなったことに納得していないようだ。
 なまえからの手紙を読む。 そこには謝罪の言葉が綴られていた。そんな言葉は求めてない。手紙だと、彼女の本当の感情が一つも読み取れない。なまえは、いつも私に対してこんなもどかしさを感じていたのか。今更ながら実感させられた。
 私が何か言っていたら、なまえはまだ此処にいてくれたのだろうか。後悔が押し寄せて来る。
 彼女に教えていた曲を奏でてみたが、ただただ虚しく響くだけだった。この曲は、恥ずかしくてなまえには教えていなかったが彼女と共に弾けたらとても素敵だなと思いながら作ったものだ。隣になまえがいない限り、この曲は完成しないようだ。

20180617