text log | ナノ
「君宛に荷物が届いていたぞ。冷えているようだが」
「ありがと」
執務に飽きて歌仙か光忠に夕飯後ではあるが茶菓子か夜食でもねだろうとした頃、今日の近侍の膝丸がダンボールに入った荷物を私室まで持ってきてくれた。クール便で届く荷物には心当たりがあった。おかげで光忠はともかく歌仙に渋い顔をされずにすみそうだ。
荷物を受け取り、箱の梱包を解いていくとわたしの想像通りの物が入っていた。北海道の有名なメーカーのポテトチップチョコレートだ。
「……菓子か何かか」
「うん。膝丸も食べよ
わたし用に買ったやつだから、他の人と髭切には食べたことはひみつにしてねと念を押しておく。
うちの膝丸は甘過ぎるものは得意ではないみたいなので、三箱買ったうちの中でも甘さ控えめなものを開封することにした。
「これは何だ」
「ポテトチップ食べたことあったっけ?」
「御手杵や短刀たちが気に入っている揚げた薄い芋だろう」
「そうそう。それにチョコレートがかかった奴」
「む……」
「ポテトチップチョコレートです」
「ぽてとちっぷちょこれーと……」
「ふふふ」
わたしに倣って復唱してくれたが、発音が拙いのがかわいくて思わず笑みがこぼれてしまった。笑ったのを揶揄われたと解釈したのかちょっと不服そうにしている。ごめんごめん。
「食べよっか」
お皿を取りに行くのは面倒だったので、開けてそのまま食べることにした。一緒にいたのが歌仙だったら、もし割ったらすっごく怒られそうなすてきなお皿の上に移しかえて、お茶を煎れるまで食べようって言ってくれないだろうな。膝丸は無造作に開封されたお菓子とペットボトルから紙コップへと注いだ無糖の紅茶を見ても特に何も言うことなく、それを受け入れてくれるからちょうどいい。膝丸はポテトチップを摘んで少し訝しげに見つめたが、まもなく口へと放り込んだ。
「成る程」
「美味しいよね」
「甘いのと塩味は分けた方が良いと思うが」
「うんうん」
といいつつ、手が止まっていないんだよなあ。わりと気に入ったみたいで何よりだ。わたしも食べよう。うん、やっぱり安定して美味しい。
「……君、さっきから頬が緩んでるぞ」
「え、うそ」
膝丸の指摘に顔へと手を伸ばす。触ってもよくわからないけど。美味しいからかなあ。
「……これから君への手土産はどちらも合わさった物を用意した方がいいのだろうか」
膝丸はわたしと摘んでいるお菓子を交互に見やったと思えば尋ねてきた。
「んー? そうじゃなくてもうれしいよ」
「そうか」
そういえば膝丸は遠征とかどこかに行くと度々何かをわたしに土産と称して持ってきてくれる。食べ物が多いからだいたい一緒に食べる流れになる。そして高確率で歌仙に食べたことがばれていて、おやつを減らされる。彼曰くわたしの顔に食べたと書かれているらしい。そんなにわたしはわかりやすいものなのか。
「食べ物じゃなくたって、膝丸がくれるならなんでもうれしい」
「…………」
みんなから貰ったものは全部大切にしてるよ、と付け加えると何でか先ほど笑ってしまった時よりも眉間に皺を寄せられてしまった。いったい何が気に食わないのだろうか。せっかく美味しい物を一緒に食べてるんだからもう少し楽しそうにしてほしいんだけどなあ。
「……髭切呼ぶ?」
「何故そうなるんだ」
あと兄者は遠征中だ。君がそう手配しただろう。と膝丸の言葉は続く。髭切と一緒じゃないから不服なのだろうか。首を傾げつつもポテトチップに手を伸ばしすと「君、今見当違いなことを思い浮かべてるだろう」と少し呆れられてしまった。どうやら膝丸にもわたしはわかりやすいみたいだ。

20211013