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「#エロ」のBL小説を読む
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 いつも目で追っている子がいる。その子はクラスでも目立つわけでもないのだが彼女の纏う雰囲気に惹かれ、気づくとこの人よりも少しばかり優れた目で彼女を追ってしまうのだ。
 彼女は一人のときは常に音楽を聴いている。音楽プレーヤーが必需品みたいだ。何の音楽を聴いているのかは知らない。
 彼女が聴いている音楽を知るのに時間は掛からなかった。

「じゃあ高尾くんは黒板消してくれる?」
「ん、もちろん」
 日直の当番が一緒になり、今日初めて彼女と色々なことを話した。とはいってもほとんど事務的な話で今はもう放課後。明日からは普通に話さないことが当然な日々に戻るのだろう。なまえさんが日誌に今日の授業の内容やら欠席者の数を記していくのを眺める。丁寧な字だ。
 ぱたん、と日誌が閉じられる。じゃあ、これ出しておくから高尾くんはもう帰っても大丈夫だよと言われてしまった。もう少し一緒にいたかったが何かとりわけ話題があるわけでもない。名残惜しいが帰るとするか。今日は部活もないしどこか寄るかなどとどうでもいいことを考える。なまえさんは既に身支度を整え、いつものように音楽プレーヤーに手を掛けた。あ、話題見つけた。

「な、なあっ!なまえさんっていつも何聴いてんの?!」
 帰ろうとする彼女を咄嗟に呼び止めようとしたため声が大きくなってしまった。うわ、何してんだオレ。なまえさんびっくりしてるじゃねーか。オレ普段はこんなヘマしないのにな。
 なまえさんはイヤホンとオレを交互に見つめるとイヤホンの片側をオレに差し出した。
「聞いてみる?」
 まさかのなまえさんの提案に固まる。普段の軽い振る舞いとはまったく異なる自分がいる。もしこの場に真ちゃんがいたら気持ち悪いと一蹴されていたんだろうな。いや、これは他の奴がいても何か言われるに違いない。今が放課後で、他に誰もいなくて本当によかった。手が震えそうになるのを抑えてイヤホンを受けとる。ちなみに、もう片側のイヤホンはなまえさんの耳におさまったままだ。音楽プレーヤーを操作しながら何か説明してくれているらしいがこの状況のせいで全然頭に入ってこない。あ、音楽始まった。のだがやはり右から左へと抜けていく。
「……どう?」
「えっ、あ……割と好きかも」
 ごめんなまえさん、嘘ついた。今度ちゃんと聞き直すから許して。この状況で音楽に集中するのは無理だ。
「本当?」
 嬉しそうになまえさんが微笑む。本当にこの曲が好きなようだ。今のそれ、反則っしょ。オレの鼓動は速まり音楽に集中するのは更に困難となってしまった。
 胸の音が彼女に聞こえてないよな、なんてかっこわるいことを考えつつこの幸せな時間が少しでも長く続くことを祈った。

20120824