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「#エロ」のBL小説を読む
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「何で浴衣じゃないんスかー」
 明らかに落胆している黄瀬のことは放っておくことにしよう。部活後いきなり誘っておいてすぐに浴衣になんて着替えられるわけもないでしょうよ。むしろあの短時間で私服に着替えてこれただけで褒めてもらいたいものだ。目の前の男はやたらと気張った格好をしているが私(たち)が見るのは黄瀬ではなくて花火だから。そもそも今日はレギュラーのみんなと見ると聞いたのだが彼らが来る気配がない。……こいつ、謀ったな。締まりのない顔に腹が立ったので一発どついてやった。あ、何か私笠松みたい。
「人、増えてきましたね」
 黄瀬とくだらないやり取りをしていて気づかなかったが花火が上がる時間に近づいてきたこともあり辺りは人でいっぱいになっていた。心なしか周りに女の子が多い気がする。きゃあきゃあと甲高い声が耳障り。これだから黄瀬とどこかへ行くのは嫌なのだ。変に着飾るぐらいだったら見つからないための変装の一つや二つしてきなさいよ。苛々しながら顔を上げるとそれの原因でもある男が見当たらない。あれ、黄瀬どこいった。周囲を見渡してみても人混みのせいで紛れてしまっている。無駄に目立つ容姿なのに全然役に立たないじゃないの。はあ、もう帰ってしまおうか。

「なまえせんぱいっ!」
 背後からの声に振り返ると黄瀬が人混みを掻き分けながらこちらへやってきた。何その眉を下げてあからさまに申し訳ないと言いたげな顔、よく表情が変わる男だ。
「すいません、オレなまえ先輩がいないの気付かなくて……」
「別に大丈夫、あのまま見つからなかったら帰ってただけだから」
 それ全然大丈夫じゃない!とか文句を言われたがもうすぐ花火があがるよと促すと黄瀬はそちらに意識を向けた。こういう単純なところは嫌いじゃない。
 ぴゅるる、どおんと音を立て、空に大きな花が咲く。先程はこれを見ずに帰ってしまおうかと思ったが見てみるとやはりいいものだ。空を見上げているとふと右手が大きなもので包まれる。それが黄瀬のだと気付くのに時間は掛からなかった。
「……何のつもり」
「もうはぐれたくないから、ね?」
 ぎゅう、と手に力が籠められる。モデルさんがこんなことしていいのかと意地悪く聞くと、なまえ先輩なら大歓迎と答えられた。何でこいつはこんなにも真っ直ぐなのか。
「なまえ先輩、顔赤い」
「っ、黄瀬のくせに生意気!」
 これは人混みによる熱気のせいだと誤魔化しても隣の男はヘラヘラ腹の立つ顔をしていたので足を思いきり踏んでやった。ざまあみろ。

20120821