text log | ナノ
「彼シャツって男のロマンらしいよ」
 ロマンって何だかおいしそうな響きだよねーと、語尾を伸ばしながら目の前の大男は言うが多分それはマロンに似てるからだと思う。というか誰だこの男にいらんことを吹き込んだやつは。室ちんが言ってたと尋ねてもいないのに教えてくれた。氷室先輩め……明日あたりにでも問い詰めてやろう。それにしても敦、何でそんなにじりじりと詰め寄ってきているんだ。
「言っておくけど着ないよ」
「えー」
 えー、じゃない。何故私が着ると思ったんだ。彼シャツはロマンだよね、そうだね私着るよといった流れになるとでも思ったのか。
「……じゃあ今すぐえっちなことしてもいい?」
「敦、会話のキャッチボールしようか」
 何故この流れで服に手を入れてくるんだ。これは着ないとそういった行為に雪崩れ込むということか。それだったら多少恥ずかしい格好をした方がマシだわ。
「……すぐ脱ぐからね」
 わかったから早く着替えてきてー、とシャツを渡された。よかった、ここで着替えさせられるわけではなさそうだ。もちろんズボンは脱いでねと念を押された。……言われなかったからと託つけて逃げ道を作ろうとしたがダメだったようだ。これも吹き込んだのは氷室先輩なんだろうな。明日問い詰めてもあの人はとぼけそうだ。にしてもこのシャツ大きすぎやしないか。普段は敦が着ているからさして気になりはしないが私が着るとなると話は違う。
「でか……」
 渋々と着てみたが、これはもはやワンピースだ。まあズボンを脱いでいても見えないのは有り難い。シャツが肩からずり落ちそうなのでおさえる……改めて考えてみると私は何をしているんだろう。もう冷静になったら負けだ。とっとと見せて着替えてしまえばいい。
「……着替えたよ」
 声に敦は振り返り、目をぱちくりさせながら私を上から下まで舐めるように見る。……先程吹っ切れたはずだが見られるとやはり恥ずかしいのだ。
「ね、もう着替えていいでしょう?」
 いたたまれなくなったのでさっさとその場を切り抜けようとしたが敦に腕を捕まれてしまいそれは不可能となってしまった。
「敦、早く着替えたいんだけど」
「えー?なまえすぐ脱ぐっていったじゃん。」
 勢いに任せてそんなこと言ったような言わなかったような。だからオレが今すぐ脱がせてあげるしー、って何を言い出すんだあんたは。シャツの中に大きな手が入り込み、素肌に触れられる。あ、これはまずい。というか、着ても着なくても結局そういった行為に雪崩れ込むんじゃないか。話が違う。
「なまえがオレのシャツ着てるのすごく興奮するー」
 まあ、なまえにはいつもむらむらしてるんだけどねー。ふわふわと、ぼんやりとした意識の中にて何やら物騒な台詞が聞こえた気がする。ぱちんと音がしてブラのホックが外されたのがわかった。
 ああもう、どうにでもなれ。

20120816