text log | ナノ
「っ、」
 頭がくらくらする、熱中症だろうか。この暑い中マネージャー業に専念しすぎて水分補給を怠ってしまったのがまずかったな。さっき紫原くんにしっかり水分は摂るようにとからしいことを言ってたのに自分がこんなことになるなんて情けないな。あ、景色がおかしくなった。
「……――おいっ!」
 いよいよ意識を手放すかと思ったが、聞き覚えのある声で何とか踏みとどまる。声の正体は副主将の福井先輩だった。
「せんぱい……?」
「ふらふらしてるし、顔色悪い。どうした」
「あ、熱中症、かもです……」
 そう答えると先輩は私の頭をひっぱたいた。頭いたいのに、ひどいですよ。内心にて不満を述べていたらあっという間に私は担がれていた。うわあ、うちのバスケ部にあまりそういったことをからかう人がいなくてよかった。普段は2mもの大男に囲まれているから気づかなかったけど私のことを軽々担ぐなんて福井先輩って意外とたくましいんだなあ。薄れゆく意識の中、暢気な事を考えていた。

「ん……」
 鼻につく消毒液の匂い。どうやら私は保健室に運ばれたようだ。意識を取り戻した頃には、既に陽が沈んでいた。そんなに長い時間寝てしまっていたのか。そういえば、昨日はデータをまとめていたから寝不足だったな。それも相まってこんな事態になってしまったのかな。体育館が騒がしくないということは、もう練習も終わったのだろう。私も早く帰らないとな。身仕度を整えるべく体を起こすと同時に保健室の扉が開く音がした。
「あ、起きたか」
「すみません、先程はありがとうございました」
 お礼の言葉を遮るように飲み物を押し付けられた。飲めってことかな。久々に取り入れた水分によって喉が潤うのがわかる。今度からはちゃんと水分補給をしなければ、反省。
「もう大丈夫なら帰るぞ、送る」
「いや、そこまでされるのは悪いのでいいですよ。もう一人でも大丈夫ですから」
「さっきは大丈夫じゃないから倒れたんだろ」

 痛いところを突かれてしまい、結局送ってもらうことになった。何から何まで色々と申し訳ないです……今後はこういった失態を無くさねば。それにしても福井先輩ってぶっきらぼうに見えて意外と優しいんだな。
「福井先輩は、いい先輩ですね」
 思ったことを言うと福井先輩は意識を手放す前のように私の頭をはたいた。さ、さっき大丈夫と言ったとはいえひどい……!
「おっまえな……!先輩とはいえただの後輩にここまでするわけねぇだろが!!」
 わかれよ、鈍感。と付け足すように吐き捨てられる。不機嫌な素振りを見せる福井先輩の顔は暗くてよく見えないが心なしか赤いようだ。その様子からある思考に辿り着き、顔に熱が一気に押し寄せてきた。今の顔の火照りの原因は先程の暑かったそれとはまったく質が違う。この熱は夜風だけでは冷ますのは無理そうだ。

20120723