text log | ナノ
「醤油きれたから買ってくる」
「オレもいく」
買い物に着いてくるなんて珍しいな、もしかして荷物が重くなるから一緒に来てくれたのかなと淡い期待を抱いた私が馬鹿だった。

「………」
「買わないからね」
スーパーに着くと敦はカートを取って一目散に駆けていった(実際は早歩きだったが歩幅は走るそれだった)と思えばある箇所で立ち止まり座り込んでいる。その箇所というのは幼い頃なら誰しも目を奪われたであろうお菓子売り場だ。頭の中は幼い子供だとしても2m超の男がお菓子売り場に張り付き菓子を吟味している光景は大層シュールだと思われる。他の客がやって来たらこの光景をどう思うのだろうか。とりあえず敦をお菓子売り場から離す事を考えなければ。

「オレ財布忘れたから」
「聞いてないから、行くよ」
菓子売り場から離すべく敦の手を引いてみたもののびくともしない。これが幼児だったら担いででも連れていけるのだがこいつは男子高校生の中でもかなり大柄な部類だからそんな事も不可能だ。だがここで甘やかし菓子を与えるのは敦の今後によくないだろう。
あれ、私敦の母親みたい。

「お金必要な分しか持ってきてないんだから、ほら立って」
オレにとってお菓子は必要不可欠だしとか不平を述べる声が聞こえるが気にしない。本来の目的を果たすべく私はカートを敦から奪い取り歩き出そうとした。
「お菓子買ってくれないなら後でなまえちんのこと食べちゃうから」
背後の言葉に嫌な汗が伝うのがわかる。声色が本気だ。今からでもいいんだよなんて物騒なことを言うんじゃない。明日は学校だから何としてでもそのような事態は避けたい。でも今は本当に必要最低限のお金しか持ち合わせていない、どうしろと。

「ホ、ホットケーキ……」
「……」
「材料はあるから、家帰ったら作るから、ね?」
「…しょっぱいものの気分だったけどなまえちんの作るホットケーキ好きだから許してあげる」
苦肉の案が承諾され安堵する。ありがとうと言い掛けたがそもそもこれは敦のせいだった事を思いだし言葉を飲み込む。
ホットケーキが食べれると聞いた途端隣の男はやたらと上機嫌になった。本当にこいつはわかりやすい。
もうしばらくは敦と買い物には行きたくないと思ったが買い物が済んだ際に彼は荷物を当然のように持ち、空いている手を差し出してきたのに対して恋人と買い物も悪くないなと考えながら自分の手を差し出した。

20120612