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※氷室が変態くさい

「こう、執事にお世話されたい」
そんな願望を漏らすと氷室は苦笑を浮かべた。何で笑うの、良いじゃないの執事と投げ掛けるとオレには今一つわからないやと返された。モテる割に女心を理解してないなこいつ。
「女子の夢だと思うよ、執事に奉仕してもらうのって」
「なまえも?」
「さっき言ったじゃん」
氷室は考え込んでいるようだ。やはり男子には理解しがたい事なのだろうか。メイドさんで例えてみれば納得されるのかな。
「ね、氷室。メイドさんはお好き?」
「何それ。なまえ、俺がやってあげようか」
メイドが好きか否かをぼやかされたかと思うとまさかの提案をされた。
「え、いいの?」
氷室なら物腰柔らかで紳士だし、何しろ見た目もいい。私はどちらかというと初老の執事に奉仕してもらいたいけど、氷室レベルなら文句ない。

「見よう見まねになってもいいのなら」
「そんないきなりやる人に完璧にやれとか無茶言わないよ」
「とりあえず、ご主人様に敬意を持って忠誠を誓えばいいかな。……まぁオレには下心も含まれてるけど」
氷室が何か呟いたみたいだが最後の方はよく聞こえなかった。手を差し出せと言われたので頭に疑問符を浮かべつつも言われた通りにすると目の前の男は地に膝を着け、私の差し出した手に接吻をした。え、ちょっと何してるのこの人。思わずもう一方の手で彼の頭をひっぱたいてしまった。
「痛いよ」
「いやいやいや何してるの」
「ご主人様に敬意を払った結果だよ。手の甲にキスは敬愛の証だろう?」
「いや、執事ごっこにそこまで求めてな、っい!」
もう一度手の甲に口づけたかと思うと急に片脚を持たれてバランスを崩しそうになったので何とか椅子に座りこんだ。今の様子を説明するならば先程のまま跪いた氷室が椅子に座った私の脚を持っている。何だこの普段では考えられない状況。

「ねえ、これから何が起こるの」
「なまえがさっきのキスは不満そうだったから。敬意が足りなかったかなと思って」
「多分それ以前の問題だと思うんだとりあえず脚を離せ」
氷室の言葉に危機感を覚え何とか抜け出そうと脚に力を入れてみるものの、振りほどけそうにない。こいつ、女子に力ずくな手段をとるような奴だったのか。
「まぁ、欲しいものを手に入れる為ならね。それで爪先へのキスは崇拝の証なんだって」

「会話のキャッチボールをしようよ氷室クン、君帰国子女だけど日本語通じるだろ早く離れろ!」
「暴れると下着見えるよ?」
「なっ……?!狡いっ!」
一瞬怯んだらあっという間に追い詰められてしまった。無駄に整った顔を近づけないでくれ。おかしい気分になってしまいそうだ。
「何とでも、これからご主人様に自分の忠誠の証をつけさせていただいてもよろしいでしょうか」
耳元で囁かれた有無を言わせまいとする声に今まで込められてた力が抜ける。先程彼に欲望を漏らし、それらを安請け合いをした自分に激しく自己嫌悪をしながら、私は彼に印とやらをつけられることになる。それを私が忠誠などという感情よりもよほど重みのある感情によるものだと知るのはもう少し先の話だ。

20120609