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 そういえば苗字さんに彼氏がいるかもしれない、とか彼女に会ってから一度も考えたことなかった。自分の為にとんでもない長さの階段上ってこられたり、プレイがすごいとか言われたらもしかして俺のことをとか思ってしまうのも無理はないだろう。いや、でも苗字さんは「すごい」とは言ったけど「好き」とは言ってないし、やっぱり勝手に舞い上がった自分が悪かったのかもしれない。自分が女子と接することがほとんどないために彼女のことを意識しすぎていたんだ。苗字さんは普通に接していたのに、好きになった俺が悪い。
 悪いから、好きなのをやめよう。そう決意してもなかなか気持ちの整理はついてくれない。苗字さんの連絡先は消せないし、以前もらったタオルをどうにかすることもできないのは我ながら情けない。伝えることなく、この感情が風化していくのを祈るとしよう。気持ちが次に苗字さんと会うであろう試合までには落ち着いてくれればいいのだが。苗字さんは試合に来るのだろうか? 予定は聞かれたが、彼氏がいるのに他の男に会ったりするのってどうなんだ。俺としてはありがたいけど、苗字さんにそういうことをしてほしくない気持ちもある。いや、彼氏とうまくいってないならありかもしれない……なんて考える自分は鬼カッコ悪い。

 頭を悩ませていても、試合の日はやってくる。着くなり苗字さんがいないかと辺りを見回してしまうのは許されたい。苗字さんは俺たちのベンチと反対側の観戦スペースにいた。苗字さんの隣の女子にも見覚えがある。初めて会ったときに一緒にいた友達だ。心なしかその友達が俺を睨んでいるような気がする。いや、遠いから断定はできないが。
 情けないことに苗字さんが試合を見に来てくれた事実に舞い上がってしまっている。落ち着け俺。苗字さんは誰かの彼女。……これは虚しくなるからこれ以上考えるのはよそう。試合の時は、アメフトやっているときは苗字さんのことは考えない。別に今意識しなくても、試合が始まればそうなるのだが。別に苗字さんがいるからって特別頑張ろう、とはならない。いつも通りにやって勝つだけだ。その後は、いつも通りではなくなるかもしれないが。

 試合は危なげなく勝って終わった。だが部員の皆がいつもより落ち着きがない気がする。観戦スペースの方と、俺のことを見比べて「まさか」とか「一休に限って」など、俺に失礼なワードがちょくちょく飛び交っている。一体なんだというのだ。
「あの子、この間お前に会いに来た子だよな?」
「あ、ハイ」
 山伏さんに苗字さんのいる方を指さしながら尋ねられたので頷くと皆が更に騒がしくなった。俺が見ていることに気付いた苗字さんがこちらに向かって小さくではあるが手を振ったからだ。……いやこんなことされたら誰だって勘違いするだろう。そんな俺(たち)をよそに苗字さんは友達に耳打ちした。すると友達は荷物をまとめて帰ってしまった。一緒に帰らなくてよかったのだろうか。苗字さんと少しでも長く同じ空間にいられることはありがたいのだが。って俺、未練ありまくりじゃないか。いやでも苗字さんは今日ここに来てくれているし、今日、苗字さんが帰るまで夢を見ることを許してほしい。