text log | ナノ
※捏造有りの角持ち夢主

「いや、私も行きたい」
「困りましたね……」
 わがままを言っているのはわかる。ミデンに行くからこそ、自国の警戒を怠ってはいけないということも。私も自国の防衛に力を入れるつもりでいた。行ってらっしゃいって見送るつもりだったのに。だけど、こんな直前にあることを知ってしまったから。こうなると話は別だ。
「ヴィザ翁が星の杖使うなんて聞いてない……」
 まだ使うなんて決まってねーだろ、エネドラちゃんはうんざりと、吐き捨てるように言うが、使わないとも決まってないじゃない。可能性があるのだったら何とかしてミデンに行きたい。ヴィザ翁の星の杖を使うところなんて見たことがない、国宝だからそのような事態になることなんてそうそうないのだ。どうすれば着いていけることになるのだろうか。とりあえず、今回ミデンに行く人に当たってみよう。
「エネドラちゃん、君船が狭いとか文句言ってたよね。かわってあげるよ」
「#name3#とオレじゃ戦力に差が出るだろ、バカか」
 つーかエネドラちゃんって呼ぶのやめろっつったろ、そんな言葉は気にしないが持っているトリガーが違うから戦力に差が出るというのは否めない。
「じゃあ、ヒュースくん」
「断る。#name3#、お前は与えられた任務に責任を持て」
 エネドラちゃんといい(何でそいつは普通に呼んでんだとギャンギャン喚いているが放っておくことにしよう)、ヒュースくんといい、まともなことを言われてしまったらこれ以上何か言えないじゃないか。でも、見たいものは見たいのだ。ヴィザ翁を見やると、相変わらず困ったような顔つきをしている。……ごめんね。それにしても隣のミラ嬢の冷ややかな視線が怖くて痛い。君にかわってなんてそんな無謀なことは言わない。他の人達にも恐れ多くて言えないかなあ。言ってみたところで笑われるのは目に見えている。ううむ、これは八方塞がりという奴か。
「#name3#殿」
 ヴィザ翁が私の元へとやってきて、申し訳なさそうな顔をしている。わがままを言い出したのは私なのにそんな風にされると申し訳なくなってくる。
「今回#name3#殿を連れて行くことはできません」
「……うん」
 そのかわり、約束しましょう、だなんて。わがままを言い出したのはこっちなのに、私のことを考えてくれるなんて。ヴィザ翁のこういうところが私は好きなのだ。
「私がミデンから帰ってきたら、星の杖よりもっといいものをお見せします」
「……それって、雛鳥たちのこと?」
「いえ、当然のことですが私は#name3#殿よりも長い時を過ごしてきました。それで多くのものを見聞きしているんですよ」
 だから、その中でもきっと#name3#殿も星の杖以上にお気に召すものがありますよ。そう淡く笑むヴィザ翁の声色は優しい。
「もし、それらが私が気に入らなかったら?」
「#name3#殿の気が済むまでお付き合いしますよ」
「じゃあ、今回の星の杖は我慢する」
「ありがとうございます」
 お礼を言いたいのはこちらの方だ。星の杖よりも、いいものかあ。それだけで、楽しみになってくる辺り自分でも単純だと思う。他のミデンに行く皆はまだやってるのか、みたいな目を向けてくるがそんなのも気にならない。
「では#name3#殿、私達が留守にしている間はこの国をお任せしますね」
「うん、行ってらっしゃい」
 船へと向かうヴィザ翁たちの後ろ姿を眺める。ふと頭に触れるとかつて埋め込まれた角と呼ばれるそれが今も変わらずに存在していた。ああ、私のやるべきことは皆の見送りなんかではないんだ。この私が、皆が育ってきた国を守らねば。その後、ヴィザ翁が見せてくれるとびっきり素敵なものは何なのかを考えることにしよう。

20140622