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帰宅すべく身支度を整えると、そこには菊地原くんがいた。またね、と別れの挨拶を告げても彼は私の後ろをくっついて離れない。菊地原くんも帰るのかと尋ねても頷くだけで相変わらず私の元から去ろうとしない。他愛のない会話をしながら歩いていると私の家に辿り着いてしまった。しかし菊地原くんはやっぱり私の後ろにいる。再度別れの言葉を告げてみたら「え、追い返すつもりなの?」とぶつぶつ言われてしまった。あ、これ入れないとだめなやつか。まあ、今部屋そんな散らかってもないしいいか。
部屋に入った時、ぼそっとお邪魔しますと言い靴を揃えるところはちゃんとしてるんだなあと思ったけどこれ普通だ。
菊地原くんは日頃の言動があれだから普通のことしてるだけでもきっちりしているように見えてしまう。
「客来たのに何も出さないってどうなの」
じゃあ人のベッドに転がってその一言ってどうなのって君に返してあげたい。
「はいはい、菊地原くんって晩ご飯食べたの?」
「……食べてない、お腹すいた」
「家にあるもので作るから、大したもの出せないけどいいかな」
「……いいよ」
菊地原くんは、ベッドでごろごろしながら私が先日購入した雑誌を見ている。多分私がそれをするよりも画になってる。
「菊地原くんってトマト嫌いだけどケチャップは大丈夫だっけ」
「んー、いいよ」
じゃあ昨日作りすぎたチキンライスもあることだし、今日もオムライスでいいか。一人で暮らしているとご飯の量の調整が難しい。まあ今回は多くてよかったかな。
卵と牛乳をといて、熱したフライパンにそれを投入する。眺めていると外側の玉子が固まるからそれを中央へ寄せる、その繰り返しだ。頃合いになったから、あっため直しておいたチキンライスにフライパンを滑らせ、玉子をかぶせてやれば大体は完成だ。あとは菊地原くんのお好みでケチャップをかけてもらおう。今日のは人に食べてもらうということもあり、なかなか上手にできたと思う。
「菊地原くん、できたよー」
「はぁい」
いただきます、と私になんとか聞こえる声で述べると黙々とオムライスを食べ出した。
……と思ったのだがぼそぼそと何か言っているのが聞こえる。私の分もできたので向かいに座り、食事をするとそれはもうはっきりと聞き取ることができた。
「たまごがとろとろしてない」
「野菜の切り方が好きじゃない」
「ぼくピーマンきらい」
などなど、耳に痛いお小言だ。そうか、ピーマンも嫌いだったのか。トマトは頭に入っていたんだけどそっちまでは頭が働かなかったよごめん。すごく丁寧にピーマンを取り除いてるから本当にピーマン食べたくないというのがよくわかった。それにしても私他人の料理にここまで厳しく突いてくる人初めて会ったよ。
「ごちそうさまでした」
ピーマンを除いてオムライスを食べ終えた菊地原くんは食後の常套句を述べ、スプーンでその丁寧によけていたピーマンを掬いこちらに向けてきた。
「なまえさん、ご飯ありがとう。これ、お礼」
それ君が嫌いって言ってたピーマンだよね。さっきはっきりと言ってたから覚えてるよ。「早く口開けてよ」なんて言ってくるから従わざるを得なかったけど。口の中いっぱいにピーマンを頬張るとなかなか苦い。
食事を終えたら菊地原くんは再度ベッドで寝そべり、また雑誌を読み出した。あれ、帰るつもりないのかこの子。とりあえず、さっきの食器を片付けてしまおう。
「ねえ。なまえさんって、バカなの?」
菊地原くんの突然の罵倒に手にしていた食器を落としてしまいそうになった。と、年下の男の子にこんなこと言われるとここまで堪えるのか。菊地原くんはあまり知りたくないことを私に教えてくれる。
「ど、どうしてそう思ったの」
「ぼくなんか簡単に家あげたりしてさ、意味わかんない。他の奴も家にあげたりしてるの?警戒心とか、そういったのが欠落してるからA級に昇格できないんじゃないの」
菊地原くん、それ痛い。すっごく痛い。この子変に細かいところ突っついてくるのに、肝心なところ気づかないのかな。
「あのね、菊地原くん」
「……なに」
「私流石に他の子家にあげたりしないよ」
「……」
「何が言いたいか、わかる?」
「わかんないから、言ってよ」
「菊地原くんだからだよ」
そう言い、再び片付けに取りかかると先ほどの家までの道と同じように菊地原くんは私の背後にぴったりとくっついてきた。同じように、というには語弊があるかもしれない。今はさっきとは違って文字通りに、ぴったりと私にくっついている。……ちょっと洗い物がしづらいけど、いいか。
この子って面倒だけど、わかりやすいな。すっごくひねくれてはいるけど、私よりは幼くて、そこが可愛らしいとも思える。
「デザートにプリン食べる?」
「……食べる」
なまえさんも、とか聞こえた気がするけど今は聞こえないふりをしておこう。まだ、君には可愛いままでいてほしい。

20140214