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「#エロ」のBL小説を読む
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 私は煙草の煙が、匂いが得意ではない。周りに喫煙者のいない環境で育ったからか、そもそもの体質だったのか。自分が本部の人間だということもあるけど、玉狛の方の支部長が喫煙者故にあまりそちらに近づくこともない。それほど苦手だったはずなのに。そんな私が最近、やたらと喫煙ブースの周りをうろつくようになってしまったのはあの人のせいだ。
「あ」
 一服終えた諏訪さんと会うことができた。このタイミングで諏訪さんが喫煙ブースを出るなんて、運命かもしれない。心なしか、諏訪さんの後ろにお花が見える。あ、うん、今のなしで。諏訪さん思ったよりお花の背景似合わないや。
 お会いすることができて嬉しい私に反して、諏訪さんは苦虫を噛み潰したかのような顔をし、あっち行けの意を込めたジェスチャーをする。つれない人だなあ。
「ガキが来るところじゃねーよ」
 いつも、諏訪さんは私のことを子供扱いする。一回りも年の差はないのに。確かに諏訪さんの嗜好品とは無縁だけど、一応色々なことはできるんだけどなあ。試すだけでもいいんですよ?って前言ったら思いっきり煙吹きかけられて、咳き込む羽目になった。咳き込む私を見て諏訪さんはやっぱりガキだといたずらっぽく笑うのだ。そんな風に笑われても、笑うところが見られたから、嬉しいと思ってしまうほどには私は重症みたいだ。
「私も煙草吸おうかなあ」
 諏訪さんが普段口にしているものに興味がある。銘柄も同じにして、いざ唇を重ねたときどんな味がするのか考えたり、どきどきしたい。
「必要ないんだからやめとけ。男が吸ってるからって、その女も吸ってほしいとは限らねーぞ」
「諏訪さんは彼女には吸ってほしくないんですか?」
「……さぁな」
 肝心なことは教えてくれない。うーん、どこまでも手厳しい人だ。まあ、いざという時までのお楽しみということでキスの味はわからないままでいいかなあ。どうやら、私はしばらく諏訪さんの嗜好品に手出しすることはなさそうだ。
「ったく、見てる限り得意なクチじゃねーのによく興味示すよな」
 この人ったら、わかってるくせにそういうことを言うんですか。あなたのだから興味があるのに、諏訪さんから吐き出されるものだから、煙さえも受け入れたいと思ってるのに。本当、ずるいなあ。
 諏訪さんのだったら、どんなに苦いのでもほしがりますよ。そんなこと言ったら、目の前の人は、私の額を小突きいつもの荒い口調で諌めるのだろう。考えてると、何惚けてるんだと小突かれてしまった。額のほんの少しの痛みすら、幸せだと感じられる私は、どうやら彼の吐く煙諸々に、隅々まで浸されているようだ。

20140503