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 男子という生き物は思ったより髪に時間を掛けているらしい。佐鳥もそうと小耳に挟んだから敢えてそこを乱したりしたらどうなんだろうという好奇心が湧いてきたのでやってみることにした。佐鳥どこにいるんだろ。
「なまえさーん」
 飛んで火に入る夏の虫、という表現がこんなにも似合う状況に出くわしたのは初めてだ。佐鳥はやたらと目をきらきらさせているし、どうしたんだこいつは。
「この間嵐山隊で特集記事あったんですけど、そこにちゃんとオレの写真が載ったんです!」
 報告の内容は、思いの外どうでもいいことだった。いやどうでもいいとはいってもたぶんその特集記事載る雑誌買うけどね。写真の写りとかでいじるネタできるかもしれないし。
「よかったじゃん」
「なまえさん全然感情こもってないっすね!」
 まあオレが言いたかっただけなんですけどねー、とちょっと佐鳥はむくれる。あーもう本当こいつかわいい。今すぐ頭ぐしゃぐしゃしてやりたいわ。ああ、今それやる口実できたし、やってしまえ。
「はいはい、おめでとう」
 手を頭へと伸ばすとちょっとびくってされた。何すると思われたのだろうか私は。いや、普段色々な奴にいじられてるからこうなるのか。周りの佐鳥への態度が何となくだが伺えた。
 最初は軽く頭に手を置く。今一つ佐鳥は何をされたか、何をされるのかわかってない。少し手を動かすと、自分が頭を撫でられていることに気づいたのかやたらとこちらをきらきらした目で見てくる。本当普段は何をされているんだこいつは。反応かわいいからいじりたくなるのもわかるが、素直に愛でたときのそれもなかなかのものなんだけどな。いや、普段いじられてるからこういうときの反応がよくなるのか。やっぱり可愛がるのは私だけでいいや。これは私だけのにしたい。撫でる手つきを雑にしても佐鳥は髪の毛崩れちゃいますよー、とふにゃふにゃした声色でやめてほしいという感じではない。仮にもこいつボーダーの顔とか言われてる隊にいるのにこんなゆるっゆるでいいのだろうか。あれだ、隙のないイケメンよりもちょっと崩してふわっとしてるイケメンの方がもてるよ、といえばじゃあなまえさんもっとやって!だって。まあ私佐鳥のこと言ったつもりはないんだけど。佐鳥の要望通り、私は髪の毛をくしゃくしゃにするように撫で回してやった。してやった、というか完全私の私欲なんだけれども。

「あー、満足満足」
「うわ、ほんとにぐちゃぐちゃっすね」
 ひとしきり撫で、満足し手放すと一瞬だけ不服そうな顔をされたが、こっちだって腕あげっぱなしにしていると疲れる。佐鳥は自分の髪の毛に触れ、髪の乱れ具合を確認したら予想以上だったのか驚いていた。
「今日広報の仕事あるから、セットし直さないと」
「え、大丈夫なの」
 流石に佐鳥でも公の場でこの頭はまずいだろう。やりすぎた、かもしれない。ちょっと焦ったが佐鳥はそこまで動じてない。
「だって折角なまえさんが撫でてくれるのにそれやめさせるとかもったいないじゃないですか」
 またしてくれますよね、と先ほどのようなやたらきらきらした目を見せてくるから恥ずかしくて額を小突いてしまった。佐鳥のくせに生意気な。佐鳥は小突いたのを拒絶と捉えたのか知らないがやたらとへこんでいるし。別に次はないとも言ってないんだけどなあ。まあ、今は悔しいから言ってあげない。

20140514