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※菊地原と内緒話の別視点

 ぼくは人よりも耳がいいので聞きたくないことも耳に入ってくる。ぼくだけ聞こえてるのはずるいと思ったから自分も考えたことを聞こえるように言うとそいつらは何故かやたらと怒ってくる。変なの、せっかく人が好意で事実を伝えてあげてるのに。
 ぼくと同じ能力を持つ人が入ってきたから、会ってみたらどうだ。と風間さんに言われたから面倒だけど見に行くことにした。そいつは、苗字なまえと名乗った。苗字はぼくのことを知っていたようで、ぼくを私とは違ってすごい人だと言った。褒められたはずなのに、その時はあまり嬉しくなかった。
 少し遠くの人たちが、ぼくらに気づいたようだ。聞かれているのを知った上なのかは知らないがそいつらはあまり聞きたくないことを言い出す。いや、今の場合聞きたくなかったのは苗字の方だろう。苗字がぼくに比べて劣ってるとか、そんなこと。来たばっかでぼくより優秀とか堪まったものじゃない。それなのに、苗字はその言葉をやたら重く受け止めたのかうつむいているし。何がそこまでいやだったのかは理解できない。でも、ぼくと話してるのにこんな態度でいられるのもいやだ。だから思ったことを言っただけなのに、苗字は泣きそうな顔をしながらぼくにありがとう、と言った。苗字は変な奴だと思った。

 なまえと話すようになって気づいたのだが、なまえは耳でいやなことを聞き過ぎて、普通より他人の目とか、評価を気にする質になったようだ。人の評価より、自分でどうするかで色々なことは決まるのに、どこまでもなまえは損をしていると思った。ぼくの振る舞いを半分でも見習えばいいのに。
 ぼくらはなまえのサイドエフェクトを伸ばすために必要最低限の声量で会話を行っている。内容は本当にただの世間話だ。なまえの学校がどうとか、ぼくは隊とか、歌川とか、ボーダーの連中のこととか。
 それをし出したとき、なまえはまた他人の目線を気にした。ぼくは間近で辛気くさい顔なんてみたくないんだ。なまえはまだそんなの気にしてる余裕なんてないのに。ぼくはずっとそんなこと気にしないけど。そう言ってからはなまえは人の話を聞いて悲しそうな顔を見た覚えがない。ぼくがいるときだけかもしれないが、それでも最近はましになった。 
 このやり取りは、いつまで続くんだろう。なまえがA級に上がったり、サイドエフェクトがもう伸びないと思ったり、なまえがもうこれを必要ないと判断したらおわってしまうのだろうか。今まであって当然だったのこれが、なくなるかもしれない。想像しただけで何だか気持ち悪い感じがした。何でぼくはむかむかしてるんだろう。
 目の前のなまえの唇が震える。しかしその言葉をぼくは拾うことはできなかった。聞き返せば、菊地原くんもまだまだだね、なんて会ったときでは考えられないような笑顔で返されたけど、なんか釈然としない。なぜだか知らないが、なまえの声を聞き漏らした自分が許せなかった。それがなんだかいやで、ぼくはなまえに珍しく毒を吐いた。

20140515