text log | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
※夢主が強化五感(聴覚)のSE持ち

 サイドエフェクトの中でも、強化五感はそこまで希少ではない。私もそれの持ち主なのだ。
「なまえ」
「菊地原くん」
 菊地原くんも私と同じサイドエフェクトを持っている。でも、私の方が精度も劣っている。聞こえてないつもりかは知らないけど、ある人は私のことを彼の劣化版とも言った。そうですね、そんな劣化版は他人の陰口に敏感ですよ。菊地原くんもその陰口を耳にしたとき、アイツぼくがA級3位になる前はぼくの能力大したことないとか言ってたからなまえもそれで上り詰めたらすぐに掌返すよ。まあまずなまえは色々改善するべき点がありすぎだけど、と励ましのような言葉をくれた。若干その時には余計なことも言われてる気がするが事実であるから気にしない。
 菊地原くんは私と話すとき普通の人とのより、小さな声で話す。私の能力を少しでも伸ばすため。お陰で、少しずつ拾える音も増えた。
 小さな声と、小さな声。普通の話をしているだけなのにまるで秘密の話をしているみたいだ。なんてことない話なのに、これを聞いているのは菊地原くんだけ。今菊地原くんの声を聞いているのは私だけ、いつものことなのにそれがとても幸せで素敵なことだと思える。
 正直言うと、これをし始めたとき、周りの聞こえない人に感じ悪いみたいな雰囲気を醸し出されたときもあった。でも、人の目に後ろめたくしている私に菊地原くんはなまえは耳をどうにかしたいのに、目までどうこうしてる余裕なんてあるのかと言った。菊地原くんの言葉は棘があるけど、どこかまっすぐだからちゃんと受け入れることができる。もう少しこの棘がなくなったら、なんてそんなの菊地原くんじゃないからいいの。私と同じ能力からかはわからないけど、ちょっとひねくれててわがままな、でもどこか少し優しい菊地原くんがいい。
 菊地原くんが耳にしている世界に少しでもいいから近づきたいなあ。本当にまだまだだけど。近づけて、もう私の能力の伸びに限界が来たとしてもこのなんてことない内緒話に菊地原くんは付き合ってくれるだろうか。そうだとしたら、私はとっても嬉しいんだけどなあ。
 二文字の言葉を声を出さずに、唇だけ動かす。当然菊地原くんに声は届かない。今なんて言ったの、と問う彼に菊地原くんもまだまだだねと思ってもないことを言うとなまえのくせに生意気だと、その後もぶうぶう文句を垂らされた。ごめん飲み物奢るから、と許しを請えば彼から有名コーヒーショップの期間限定品の名前が出てきた。うーん、ちゃっかりしているがもう彼の中には私が言い損ねた言葉はなさそうだからいいかな。
 さっき言えなかった言葉はいつか伝えたい。その時はいつもみたいに小さな声じゃなくて、うんざりされてもいいから大きな声で。

20140512