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 東さんは後輩によくご飯を奢っている。それにはよくやった、がんばったな、これからだ、と様々な意味が込められている。私も指導を受けていたときはよくお世話になっていた。そして私も後輩の指導をする側になったとき、あの人は本当にすごいなあと改めて実感させられた。手元から離れた子達にも目を向け気を配り、未だにその子達に囲まれて楽しそうにしているところも見かける。私もその一人になって囲んだりしたいところなのだが、残念ながらもうそこまで若くないのだ。
 狙撃手と、ほか数名で飯行くからみょうじも来ないかとお誘いの言葉をいただいた。久々のお誘いで、嬉しくて入隊当時のように目を輝かせたらみょうじは変わらないな、と笑われてしまった。……良い意味での若いということだと捉えておくことにしよう。面子を聞く限り、東さんの次の年長者は自分みたいだ。それなら指導者側として押しつけがましくならないように、お金とか出してもいいかなあ。高校生達のやったー奢りだー、とかわあわあ騒ぐ後ろでそんなことを企てた。
 食事場所は、後輩男子達の熱い要望によって焼き肉となった。というか、高確率で後輩との食事は焼き肉になる。飛び交う注文。またこいつらか、と言いたげな店員さん。売り上げには貢献してるつもりだから許してください。
 飲み物の注文が来たかと思えば店員さんがどんどんお肉を持ってくる。東さんがトングを片手に鉄板に肉を敷き詰める。後輩達はわあわあと相変わらずだ。こいつら基本学校も一緒なのによく話題がつきないな。仲が良いには越したことはないけれど。なんて、眺めている場合ではないのだ。
「あ、東さん、変わりますよ」
 肉を焼くのは私にお任せを!と意志を見せてみたのだが東さんはカチカチとトングを鳴らし、いいから、と肉の焼き具合をチェックしている。ううむ、自分の箸でやるのはあまりよろしくないから手も出せないし。じい、と東さんを眺めてるとこれみょうじの好きな奴だなと私の取り皿にぽいぽいとお肉を盛る。……覚えててくれたんだ。盛られたからには冷める前に食べねばと頬張ると美味しいし。食べたから変わろうとすれば、また皿に肉が盛られるからその繰り返しなのだ。みょうじはうまそうに食べるな、って東さんに焼いてもらったお肉なんだからたとえ消し炭にされたって美味しいに決まってる。東さんがお肉を消し炭に、その様な失敗をするわけがないのだけれど。

 結局東さんの手からトングが離れることはなく、私含めみんな満腹になったところでやっと東さんが席を離れた。東さんにお腹いっぱい食べてもらうことは叶わなかったがお会計ぐらいは……!と先ほど店員さんが置いていった伝票に手を伸ばそうとしたのだが席のどこを見渡してもそれは見あたらない。まさか、と思い重くなったお腹をさすりつつ東さんの元へと向かう。もう東さんの手元にはレシートが佇んでいた。お会計済ますの早すぎやしないか。恨めしそうな目で見つめているとまだ食べたかったのか、と冗談を交えた笑みを浮かべられた。ち、違いますよ。
「まあまだみょうじに金の心配されるほど困ってはないな」
 ぽすん、と一瞬頭を撫でられる。もう二十代に乗っかっているのにこの子供扱いだ。というか、狙いがばれていたのか。底が見えないとは思っていたがこういった面でもなかなか手強い人だ。でも、こんな風に子供扱いされるのがいやではない自分がいるのも事実だ。いつかこの人に恩返しをしようと思って始めた貯金が貯まりに貯まってしまう。いつかはこれを全部返せる日が来るのだろうか。現時点では見通しが立たない。

20140527