text log | ナノ
 もう日付も変わったというのに噛み殺すためのあくびすら出てこない。明日も学校があるというのに困ったものだ。どうすれば寝られるのか、あったかい飲み物の一つや二つ入れれば眠りにつけるだろうか。
「まだ起きてたのか」
 寝室から顔を出すと風間さんが任務の資料を片手に眉を寄せた。えへへ、と自分でも間抜けだと思う笑いをこぼしてみても誤魔化せそうにはない。
「寝ないと育たないぞ。お前だって成長がどうとか歌川たちに漏らしてたんだろう」
「え」
 私縦への成長は今のところいいかなって思ってたはずなんですが。ああ……心当たりはないこともない。出るところは出したいと風間さんと同じ隊の彼らにこぼした気がする。基本的にそういったことに耐性のない彼らにはあまり良い意味ではくみとれないような表情をされたなあ。それを聞いた太刀川さんに風間さんに頼めばいいじゃないかとか言われて私も歌川くんらと同じ様な顔をした。風間さんをぐらぐらさせるために出るところ出したいのに風間さんに直接頼むなんてどうかと思う。それにしても、歌川くんと菊地原くんはこの人にどのような伝え方をしたのだろうか。いや、多分彼らだから私の言った内容全ては抑えて、一部だけ伝えたのだろう。それだったらいっそ伝えなくてもいいんじゃないかと思うのだが、彼らは風間さんの言いつけを守ってか私のことを逐一報告しているみたいだ。私ってそこまで危なっかしいのかなあ。一応歌川くん達と同じ高校生なのだが。
 惚けていると風間さんは私の目の前に飲み物が注がれた愛用のマグカップを差し出してくれた。中身は湯気が立ち上るココアだ。ちなみに風間さんも私のと色違いのものを使っている。私が一番最初のわがままでお揃いのものを使いたいといって一緒に選んだものなのだ。風間さんもそれで飲み物を口にしているが、中身はおそらくコーヒーだろう。まだやることがあるから。あの人はいつだって夜更かしばかりしている私より先に眠ることはないのだ。それを飲んだらもう布団の中に入れ、と言われたが、私はまたわがままを言いたくなってしまった。
「風間さんが、一緒に寝てくれるなら」

 なーんて、冗談ですよと続けるつもりだったのだが間髪入れずにわかったと言われてしまい後には引けず、いつもなら一人のはずのベッドには風間さんという、一番心臓に悪い人が私の隣に居るという状況になってしまった。ココア飲んだ意味がなくなった、あれわりかし効果あってもう寝れそう……と思ったらこれだ。すべては私が招いた事態なのだが。落ち着かせるためか風間さんは私の頭を撫でてくれるが一向に顔の熱はひきそうにないし。これは言い出しておいてなんだが寝られるわけがない。近くで顔を直視するのが難しくて閉じた目を開けると風間さんは一瞬驚いた表情をした。
「……眠れなかったか」
「あ、はい……あの、大変申しあげにくいのですが……」
 心臓に悪いので、一緒には寝られそうにないです。と言えば風間さんは少し考える素振りを見せたが了承してくれた。うう、言い出しておいて恥ずかしいから無理ですなんて申し訳ないし、情けない。
「おやすみ」
風間さんが身体を起こしたから、もう一安心かと思えば最後の最後に額におりてきた柔らかい感触で私はもう今夜は寝られないと悟った。多分今の私顔の熱でお湯を沸かせられる。風間さんが寝室を後にしたので、思い切り布団をかぶってみたが、先ほどの感触は忘れられやしないし、鮮明によみがえってくるわで、どこまでも目は冴えてしまう一方だ。明日の授業はまともに受けられる気がしないから、歌川くんたちに頼ることにしよう。ああ、こんな情けない様子も風間さんに伝わってしまうのだろうか。

20140529