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「#エロ」のBL小説を読む
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 ママはすごい人だ。女手一つで私を非行に走らせることなく育てただけでもすごいなあと思うし、事業を立ち上げたかと思えば今では大きなビルまで所持しているのだ。成り上がりと言われたって痛くもかゆくもない。あの人は自慢の母だ。ママは私に会社を継いでほしいのか、熱心な教育を、そしてよくビルへと私を連れていき色々な人に紹介してくれる。学校で会う人よりもここで会う顔見知りの方が多いのではないかと思ってしまうほどに。その中で会った一人が唐沢さんだ。今思えば唐沢さんを紹介するときのママはいつもより渋っていたと思う。
「苗字さんのお嬢様ですか?」
「初めまして、なまえです」
「唐沢です、こんにちは」
 その時の淡い笑みに私の心の中は大きく乱されるようになったのだ。女子高生の心まで捕らえてしまうなんて、なんて恐ろしい人なのだろう。唐沢さんは、ボーダーでもなかなかの手腕の持ち主のようだ。一人で資金に関する交渉を行っているらしい。私はその話を直接聞いたわけではない。第三者から、ふと耳にしたのだ。自分の能力をひけらかさない男はいいってママも言っていた。私もそう思う。
 ママの会社はボーダーのスポンサーだ。その様子を社員さんから聞いたのだが、ママは唐沢さんが交渉に来たときに二つ返事で援助を引き受けたらしい。お陰でやることが増えたよ、とその人は愚痴をこぼしていたが私の頭にはまさか、とある可能性が浮上していた。
 とある可能性が確信に変わるのは早かった。ママは普段はきっちりとスーツで仕事をこなしているのだが唐沢さんが来る日はアクセサリーなどを特にお気に入りのものをいやらしくならない程度に身につけ、化粧にも気合いを入れている。あと、唐沢さんに出すお茶とお菓子が他のお得意さまに出すそれよりもワンランク上だというのも私は知っている。それが一番ママの好きな奴なのだ。好きな人と好きなものを共有したいという気持ちから来ているのだろう。ママの女の子らしいところを見て和まないかというと嘘にはなるが、これとは話が変わってくるのだ。
「ねえ、唐沢さん今夜夕飯ご一緒しませんか」
 おい母、娘の前でモーションかけるんじゃない。今まではそういったことがなかったので気づかなかったのだが母はなかなか恋愛沙汰ではまっすぐになる質みたいだ。これでもし今私が反抗期真っ盛りだったらおそらく非行に走っているだろう。今の私は?他の人相手だったらママ可愛いで済ませていたかもしれないが、相手が唐沢さんとなると話は別だ。ママずるい。私だって唐沢さんのことお誘いしたいけどお茶くみのときぐらいしかお話しできないし。というか大人の男の人なんてどう誘えばいいのかわからないし。ママは私に色々なことを教えてはくれたがこういったことまでは教えてくれなかったし、今目の前で披露されても歯ぎしりするしかないのだ。
「お茶のお代わりいかがですか」
 ママを押しのけて唐沢さんに尋ねるとああ、お願いするよとティーカップを差し出された。その指元には相変わらず女の存在を連想させるものはなくて安心した。不意に唐沢さんと目が合って思わず息を呑む。何か無礼でも働いたのだろうか、髪に寝癖でもついていたのだろうか、それとも、頭をぐるぐるさせても答えは出ないし。目の前の人は相変わらず余裕で悔しい。私みたいな小娘が思いを寄せてるなんて露ほども思っていないのだろう。
「お嬢さん、なまえちゃんと一緒なら行きますよ」
 予想外のお言葉に母娘で間抜けな声を上げてしまった。ママは今からいいところ予約してきますねといつものきりっとした様とは大違いだし、私も私でこれから唐沢さんとご飯ということで一気に上がったテンションを悟られないように必死だ。何で私となら行く気になったのだろうか。唐沢さんと母と一対一になった場合、ストッパーになる者がいないから、多分娘の私となら母としての理性も働くだろう、と考えたのだろう。もう少し夢見がちでいたいところだが、私は母の元で普通の女の子より現実を見てきたから難しいようだ。
「今夜はよろしくね、なまえちゃん」
 前言撤回だ。どうやら私も簡単に夢見がちになれるみたいだ。たった一言で私の頭の中をお花畑にしてしまうこの人は本当に、ずるい。

20140605