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「菊地原くん」
 本日数回目の呼びかけにも菊地原くんは答えてくれない。私のベッドの上でクッションを抱え寝ころんでいる。こちらに顔を見せてくれないが、おそらくむくれているのだろう。菊地原くんがご機嫌斜めなのは伺えるのだが、原因がわからない。今日出したご飯には菊地原くんが嫌いなものを出した覚えがないし。いや、甘やかしているわけではない。自分の作ったものを全部食べてほしいという私のわがままだ。それが甘やかしていることに繋がっているのではないか、と問われたら口をつぐんでしまうがそうなったらいっそ恋人を甘やかして何が悪いと開き直ってしまおう。それにしても、どうして菊地原くんは機嫌を損ねているのだろうか。
「菊地原くんってば」
 また無視だ、菊地原くんは私と一緒にいて意味があるのかとも思えてくる。お前は飯だけ寄越せばいいんだよ、とでも言いたいのだろうか。それはちょっと残念だが、最初は文句をいっぱい言われていた料理に、それだけのためにここに来てもいいと思ってくれるのはそんなにいやではない。ああ、やっぱり私菊地原くんには甘いみたいだ。でもこんなに無視をされ続けるのはそろそろお姉さんさみしいかなあ。
 菊地原くんが寝ているベッドに近寄り、身体を揺すってみる。菊地原くんは言葉を発したようだが私は君ほど耳が良くないから聞こえないんだよ。もう一度言ってもらえるように促すと今度は私にも聞こえるようにある人の名前を言った。
「風間さん?蒼也がどうしたの」
 菊地原くんの眉間に皺が寄った気がする。菊地原くんは蒼也と何かあったのだろうか。一応蒼也とは同期だしそれとなく話でも伺ってみようかな。
「菊地原くん蒼也と何かあったの?」
「……やっぱりなまえさんってバカでしょ」
 呆れたような視線がささる。菊地原くんに久々に言われたがやっぱり堪える。相変わらず言われたときはさっぱり何のことだかわからないのだ。菊地原くん、その視線が痛いよ。
「風間さんはなまえさんの何」
「同期、菊地原くんとも出会えるきっかけにもなったから感謝してます」
「じゃあぼくは、なまえさんの何なの」
「えっと、菊地原くんは恋人だよ」
 改めて言うとなかなかに恥ずかしい。菊地原くんはその言葉に満足していないのか変わらず不満そうな目をこちらに向けてくる。え、私が思いこんでるだけで私は菊地原くんの恋人じゃなかったのか。
「……それわかってるのに何でぼくは他人行儀な呼び方で、風間さんはやたらと親しげなの」
 ご飯の時に風間隊の話になったのが菊地原くんの機嫌を損ねてしまう原因になってしまったのか。ううむ、長い間そう呼んでたからそれがそう思われてしまうことになるなんて想像してなかった。でも今更蒼也の呼び方を変えるのは難しいなあ。
「……なまえさん、風間さんの呼び方を改めようとか考えてるでしょ」
 そうじゃないでしょ、溜め息をつかれてしまった。他にも変えられるのあるじゃん、そんなのわかってるけどどこか恥ずかしいのだ。でもこの子に真っ直ぐと目を見られるのは弱いなあ。
「……し、士郎くん?」
「後ろの余計」
 特別な人だからこそ恥ずかしいんだよ、察してください。ベッドに横たわっていた菊地原くん改め士郎くんが起きあがったかと思えば私の肩にもたれかかってきた。ち、近い。士郎くんいつもより積極的だ。
「まあここがいつもより騒がしくなっていい気味だから」
 許してあげるよ、胸元に顔を寄せられたので表情を見られないが声色から察するにどうやら機嫌は直ったらしい。しかしこの状況は私の心臓にはとてもよろしくない。いつぞやきみは可愛いままでいて、なんて願いをしたがそれは神様にも知らんぷりされてしまったみたいだ。

20140606