text log | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
※割と下品

 薄暗い部屋の下、いつもより雄っぽい目をした人にベッドに縫いつけられて何をするかわからないほど私は子供ではない。ある日、目の前の人によって私は女になったのだ。これからもその自分が女だと自覚させられる行為が始まるのだ。目の前の人は私に顔を寄せたかと思えば「あ」と間抜けな声を漏らした。洸太郎さんってば、相変わらずムードもへったくれもない。嫌いじゃないけど。
「ゴム切らしてんの忘れてた」
 あまり部屋は明るくないけれど、洸太郎さんがしくじったとでも言いたげな顔をしているのはわかる。ああ、この間いくつか使いましたもんねと言うとうるさいとのことだ。本当のことなのに、理不尽。
「買ってくる」
 舌打ちをし、さっきまでは必要ないとでも言いたげに放られたワイシャツを手に取る洸太郎さんにむくむくと、何かこの人をよろけさせるような言葉を投げてみたいという欲がわいてきた。何をいえばこの人はよろめくのだろうか。「危険日じゃないから中に出していいよ」……別に安全日だという訳じゃないし。「外に出してくれるならゴムなしでもいいですよ」……洸太郎さん中でいきたがる人だからこの言葉じゃ納得してはくれないだろう。真剣に考えるようなことではないのはわかっているのだが、たまには私だって動揺させたりしたいのだ。……ああ、これでいこう。
 ワイシャツに袖を通す洸太郎さんの耳元に顔を寄せる。洸太郎さんはそれをキスのお誘いだと思ったのか、唇に迫るそれを思わず掌で抑えてしまった。違う、違うんですってば。洸太郎さんは何か言いたそうだが、何かを言いたいのはこっちなのだ。仕切り直して、洸太郎さんの耳元に唇を寄せて。
「洸太郎さんが中まで洗ってくれるなら、いいよ」
 いつもしているときほどではないけど、自分でも驚くほどの甘ったるい声が出た気がする。人ってこんな声をしているとき以外でも出せるんだなあ、びっくりだ。肝心の洸太郎さんは、反応に困ったのか一瞬固まったと思えば私の頭に手刀を振りかざしてきた。
「ガキがナマ言ってんじゃねーよ」
「……生だけに?」
 親父か、と先ほどよりも威力は弱いものの再び落ちてくる手刀。いたい、これがドメスティックバイオレンスとやらか。精一杯の文句だったのだが、洸太郎さんにはあまり効果がなかったようだ。恨めしく思いながら、ワイシャツのボタンを留めていく様を横目で眺めた。
「じゃあ、買ってくるけど変なことすんなよ」
 変なことって、一人でしたりとか?洸太郎さんとこれからなのにそんな勿体ないことするわけないです。私の言葉に三度目の手刀と、ばーかとごくありきたりな罵倒の文句が降ってきた。そろそろ痛いので異議を唱えてやろうと洸太郎さんを見やったのだが、ある違和感に気づきそれは飲みこまざるをえなくなってしまった。そんな私を見て目の前の人はやっとおとなしくなったな、と乱雑に頭を撫で部屋を後にした。閉じられた扉を見て、口角の端が上がったのがわかる。……そうか、あの言葉効果あったのか。あの人は道中でそれに気づくのだろうか。まあどちらにせよ、大いに掛け違えたボタンについてはあとで存分にからかってやろう。これからの行為以外にも、楽しみが増えるのは悪くない。先ほど出て行ったばかりの人の帰りを今か今かと待ち構える。私を組み敷く人のいないベッドは広すぎるから。

20140608