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 いつものように遊真がソファーに座っていたから、その隣に腰掛けようと歩み寄る。遊真が何かを手にしていたからお菓子でももらったのかと思い、視線をそれにと向けると私の目には彼とはあまりにも不釣り合いなものが映っていた。
「……それ、どうしたの?」
「迅さんにもらった、これからなまえさんと使う日が来るだろうからって」
 あの野郎なんてことしてくれたんだ。遊真が今手にしているものはおそらくもっとも使用頻度が高いと思われるゴム状の避妊具だ。どういった意図から迅は遊真にこれを渡したのだろうか。私には未来なんて見えないからさっぱりわからない。
「遊真、それ何に使うかわかる?」
「わからないけど、なまえさんはこれつかうのか」
「……使うつもりないし、遊真にも必要ないんだから捨てちゃえば」
「む、なまえさんってば」
「ちょっと待って、ストップ」
 遊真に見つめられてギクリとする。この子は私の発する言葉の嘘を見抜くという厄介な力を持ち合わせている。後ろめたいことは基本的にないので今までは困らなかったのだが、まさかこれがこんな風に立ちはだかる日が来るとは思わなかった。もし遊真を遮らなかったらおそらくあのお決まりの台詞で羞恥心諸々で埋まりたくなっているところだ。いや、もう何を言うかわかっている時点でだいぶ負けな気もしているのだがいいのだ。可愛い遊真があんな物を持っていたことに動揺してしまった。遊真は言葉を遮られて納得が行かないようだ。次はあれを言われないように、もう少し言葉を改めねば。
「さっきのはたしかに語弊があったかな」
「ふむ」
「…………今は、使うつもりはないよ」
 ほんとだ、なまえさん今はウソついてないね。そこで今は、を強調しないでほしい。本当、この子は底が知れない。このすべてを見透かしているような目と、佇まいが好きだ。今も遠くを見ているのか、近くを見ているのかわからないような目をしている。
「ねえ、なまえさん。これ使うのはおれ相手で?」
「……今は、その予定だけど」
 おれ相手で、ってこいつ人と使うの知っているんじゃないか、使い方知らないとか言っておいて、うそつき。遊真だけそれができるのはずるい。私の言葉に満足そうにしているから、それに免じて許してあげるけど。今は、なんて私も意地悪なこと言ったし。今のところは、なんてこれからもそのつもりだけど、恥ずかしい思いさせられたから、仕返し。
「今は、これ使わないみたいだけどこれが使える間におれはどうにかしたいかな」
 せっかく迅さんにもらったんだし、避妊具を私によく見えるようにした上で掴めない笑顔を向けてくる遊真に私は、あの実力派エリートを名乗る男にどのような制裁を与えるべきか考える。これは、別に照れ隠しなどではない。遊真が心の内の嘘まで見抜ける人ではなくてよかった。それでなくても、この子にはぜんぶ悟られてしまいそうだが。

20140616