text log | ナノ
「歌歩ちゃん、いこっか」
「はい」
 一、二週間に一度ほど私と歌歩ちゃんはお昼ご飯を一緒に食べる。本当はもう少し一緒にいたいところだがお互いの隊もあることだし、食べるものも食べるものなので、そんなにしょっちゅう食べていたら歌歩ちゃんはともかく、私はあとで体重計に乗ったときに悲鳴をあげたくなるようなことになってしまうから。
 私と歌歩ちゃんが一緒になって、行くお店はたびたび異なることはあるものの食べるものはいつも同じだ。それがあったから私と歌歩ちゃんと仲良くなれたようなものだ。初めて歌歩ちゃんを見かけたのは、ある日の休憩にて足を運んだラーメン屋だ。私も一人で来ていたから、歌歩ちゃんのことはそこまで珍しいとも思わなかったのだが、食べている様に惹かれた。ふつうにラーメンを食べているだけなのに彼女の食しているそれはもっと特別なものに見えた。その時は理由がわからなかったのだが、今はああ、そういうことなんだろうなあと思うことができる。
 同じ組織に所属していることもあって、歌歩ちゃんと距離を縮めるのは難しくはなかった。偶然を装って休憩ベースに立ち寄ったり、外でご飯に行こうとする歌歩ちゃんに着いていったり、気づいたら連絡先は交換していて、「三上さん」「みょうじさん」の間柄から「歌歩ちゃん」「なまえさん」まで上り詰めた。私はもう少し歌歩ちゃんの敬語を崩させたいと思っているけど、歌歩ちゃんはしっかりしている子だからなかなかにそれが見られないのがもどかしい。もっと遅くに生まれてくれば良かったとも思える。もっと迫ったら乱れてくれるのかな。歌歩ちゃんは道中私がこんなこと考えてるなんて思ってもないんだろうな。お店のドアを開けると変わらずそこは熱気がこもっていた。
 お昼時だったけど、運良くカウンターが空いていたので座ることができた。テーブル席も悪くないけど、歌歩ちゃんと肩を並べられるから、こっちの方が好きかな。いつものように注文すると、威勢の良いおじさんの声が返ってくる。来るまでの間は歌歩ちゃんの近況を聞かせてもらう。ちらちらとカウンターの向こうの様子を伺いながら話す歌歩ちゃんはとっても可愛い。もっと話も聞きたいけど早く注文したものが出てこないかなとも思える。
 ごとり、私たちの目の前に待っていたものが並ぶ。歌歩ちゃんの目が今日一番きらきらしている。悔しいけど、私も好きなものだから仕方がない。このときばかりは私も歌歩ちゃんから目がそれてしまうもの。私たちは食べている間全然言葉を交わさない。そんなまったりしながら食べるようなものではないのだ。食べている間、とは言ってもそこまで長くもないのだが。いつも先に食べ終わるのは私だ。その様を見て歌歩ちゃんはいつも申し訳なさそうな顔をし、実際にお待たせしてすみませんとも言ってくるが私は歌歩ちゃんを見る時間がほしいから、もっとゆっくりでも構わないんだけど。私より一口が小さなところもかわいい。今その口元にかぶりついたら油っぽいのかな、なんてむくむくと邪な考えも湧いてくるが、それは少し氷の溶けた水でなんとか流し込んだ。歌歩ちゃんはもっとロマンチックなキスに憧れてるかもしれないから、こんなところで奪うわけにはいかないのだ。
「相変わらずおいしいね」
「そうですね」
 そこまで食後の余韻にはひたらない。お互い休憩時間は限られているのだ。流れるように、レジへと向かいお会計を済ます。お金を払っている間いつも歌歩ちゃんは落ち着きがない。別にそこまで痛い出費でもないし一緒にいてくれるからそのお礼のつもりなんだけどなあ。
「いつもすみません」
「いいのいいの」
 可愛い後輩に先輩らしいところ見せたいんだよ、と言うと歌歩ちゃんはむずがゆそうにする。また行こうね、私の言葉に頷いてくれる歌歩ちゃんは本当に可愛い。いつにしようか、なんて前のめりになったりはしない。近いうちにその次があるのはわかっているから。この子が私を選んでくれる日が来るのかは残念ながらまだ見えないのだが。あの反則級のサイドエフェクトを持つ彼を一瞬羨ましく思ったが、こうして手探りで距離を縮めていくのも悪くない。

20140618