text log | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 月曜の授業は嫌いだ。一限も嫌いだ。どっちも合わさったものなんて。マイナスとマイナスを掛け合わせたところでプラスにもなってくれないのが困りどころだ。月曜一限の授業、なぜこんな授業を履修してしまったか。答えは至って単純なもので、生徒の間で楽に単位が取得できると噂が流れているからだ。とりあえず、期末で過去問になぞった試験をそこそこに解けさえすれば出席は二の次らしい。
 期末の講義だけ教室いっぱいに生徒が増える。念のため早めに来たのだがそこそこ席は埋まっている。この講義、こんなに受講者居たんだ。どこから湧いてくるんだか。まあ私もそこまで人のことは言えないのだが。過去問を片手に空いている席に座ると隣には私の予想し得ない人がいた。
 嵐山くんを知らないというのは、ボーダーを知らないと同義だ。ここ三門市にはおそらくそのような人はいないだろう。今、私の隣にその有名な嵐山くんが座っている。目が合えば会釈をしてくれた。あ、いいひとだ。この大学に嵐山くんがいるというのは耳にしたことがあったが残念なことに学科が異なっていたのでほとんどお目に掛かったことがないのだ。その嵐山くんが今私の隣にいる。すごい。近くで見てもかっこいいんだ。ついそちらに視線を向けているともしかして誰か来るんですかと、それなら席移りますよと提案された。ううん、そんな必要ないです。でも見とれていましただなんて本当のことは言えず首を振ることしかできなかった。嵐山くんは私の意志を汲み取ってくれたのかお礼の言葉を私にくれた。そ、そんなもったいない……!
「あの、私嵐山くんとタメなんで敬語いらないです」
 言ってる私が敬語でどうするんだ。嵐山くんは一瞬きょとんとしたがすぐに笑顔を向けてくれた。私今日が人生最良の日だって断言できる。しあわせ。嵐山くんはテストだから机の上に出してある私の学生証をまじまじと見たかと思えば苗字さんと呼びかけてきた。え、え、いったい私はどこまで幸せに浸ればいいのだろうか。
「この授業、ボーダーの関係であまり出られていないんだが抑えておくべきところとかってあるかな」
「そ、それなら」
 もらった過去問と自分なりにまとめた要点を嵐山くんに伝えると彼はそれを熱心にメモをとる。今嵐山くんが、私の言うことに一生懸命耳を傾けているなんてすごい。一通り、要点を伝えるとまた嵐山くんは私に礼を告げた。
「ありがとう、助かった」
「ううん、そんなこと」
 いつも町を守ってくれてる嵐山くんに比べたら私のしたことなんて些細なことだ。でもそれで嵐山くんとお話できたとなるともっと偉大なことをした気にもなれる。
「苗字さんともっと早く知り合いたかったな」
 嵐山くんの言葉には私を石にしてしまう能力でもあるのだろうか。あと、全身を熱くさせるそれも持ち合わせている。そのあと続いた俺もあまり出席できなかったけど、苗字さんもそこまで来てなかっただろうと図星を突かれる発言にぎくりとしてやっとまともに身動きができるようになった。わ、私だって嵐山くんがこの講義出てるって知ってたらもっとがんばって出席してたよ……
「この講義は今日で最後だけど次の学期でまた履修被るといいな」
 多分嵐山くんの言葉にそこまで深い意味はないだろう。社交辞令だってわかっている。でも、その一言で来期は出席ちゃんとしようと思えるほどには私は単純だ。この後の試験が一から答えを生み出すようなものじゃなくてよかった。今嵐山くんのことで頭がいっぱいな私にそれはあまりにも酷すぎる。
 試験がおわったあと、もう一度だけ嵐山くんに声を掛けても許されるだろうか。そのためにも最後の最後に少しだけ好きになることができた月曜一限のテストをとっとと片づけてしまおう。いつもよりシャーペンを握る手に力が込められた。

20140721