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 夏風邪は馬鹿がひくという言葉の真偽はともかく、このような日に天井を見つめてうんうん唸りながら寝込む羽目になった私は最高にバカだと思う。
 今日はお祭りだ。私は桐絵ちゃんと回る予定だった。桐絵ちゃんは浴衣を着るんだと張り切っていた。どんなのを着るのかと尋ねたらそれは当日までの秘密だと、私の楽しみの一つになっていた。桐絵ちゃんは可愛いからどんなものでもサマになるんだろうなあ、そんな子が普段は斧振り回しているなんて誰も想像できないだろう。私も桐絵ちゃんほどではないがなかなかない浴衣を着る機会に胸を踊らせていたのだ。とにかく桐絵ちゃんの浴衣姿とか、りんご飴とか、わたあめとか、屋台ならではの焼きそばとか、射的とかいっぱいいっぱい楽しみがあった。でもそれが体温計に示された数字のせいですべて台無しにされたのだ。なんで、今日に限ってこんなことに。普段は頼らない神様にお願いしますとか心の中で唱えてみても見向きもしてくれない。神様の意地悪。天井の更に向こうにいるであろうその人に心の中で毒づいた。

ー桐絵ちゃんごめんね、熱出して今日のお祭り行けなくなっちゃったー

 熱があるとわかってすぐに桐絵ちゃんにメッセージを送った。今はそれからだいぶ時間が経っているのだが返事はこない。桐絵ちゃんは私のしょうもない内容にも丁寧に返事をしてくれるから無視というのはあまり考えられない。夏休みだから寝ているのだろうか。いや、夏休みだからといってあの桐絵ちゃんが昼過ぎまで寝ているとは考え難い。早めに浴衣を着て、はしゃいでいる方が想像しやすい。もしかしたら携帯をあまり手に取れない状況なのかもしれない。とりあえず、時間ギリギリに気づいたときに気にしないようにもう一件メッセージを送っておこう。

ー私のことは気にしなくていいから他のお友達と回ってね。楽しんでー

 桐絵ちゃんはお友達も多いから一人になるなんてことはないだろう。これでよし。安心と、風邪の気だるさもあって一気に眠気が襲いかかってきた。もう一眠りすることにしよう。
 なまえ、お友達が来てるわよ。お母さんに肩を揺さぶられて、何度目かわからない眠りから覚めた。背中、ベタベタして気持ち悪い。後で着替えよう。お友達って誰のことだろう。ぼんやりと窓の外を見やると空はもう暗い。お祭りも楽しくなってきたところだろう。桐絵ちゃんも楽しめているだろうか。私の部屋のドアの向こうにいたのは今お祭りを楽しんでいるはずの人だった。
「桐絵ちゃん、なんで」
「送ったでしょ、今から行くって」
「ごめん、ついさっきまで寝てたから見れてない」
「そう。熱は?」
「まだ計ってないけどだいぶマシになったと思う」
 ふうん、と相槌を打つ桐絵ちゃんは浴衣を着ていない。もう祭りは回りおわったの?と尋ねると行ってないって予想外の返事がやって来た。どうして、桐絵ちゃんあんなにお祭り楽しみにしてたじゃない。
「ねえ、なんで桐絵ちゃんお祭り行かなかったの。今からでも遅くないよ」
「馬鹿ね、なまえ。あんたがいなかったらつまんないからに決まってるじゃない」
 ほぼ治りかけて来たとはいえ病人は涙もろいから困る。ぐっと涙を堪えたら気持ち悪いのかと心配されてしまった。ううん、違うの。嬉しいの。そう答えると桐絵ちゃんはもう一度私に馬鹿ねと言った。今のは呆れとかからじゃなくて照れ隠しからだというのがわかる。
「私、早く風邪治す。今度のお祭りこそは一緒に行こうね。それで一緒にりんご飴食べようね」
 私の言葉に頷く桐絵ちゃんのほっぺはりんごみたいに赤かった。

20140728