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「#エロ」のBL小説を読む
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 東さんはことあるごとにお菓子をくれる。アメとか、クッキーとかラムネだとか、もらったものをあげるときりがない。東さんにもらったお菓子なんて、私食べられないとか初な思考回路を最初の頃こそは持ち合わせていたのだが最近ではもらったそばであっという間に口に入れられるほどには慣れた。今でも可愛らしい包み紙のものはこっそり保管したりしているけれども。
 それにしても東さんが私にお菓子を与える意図が今一つ読めない。私にお菓子を与えてもそこまで面白いリアクションをとるわけでもないから、そういうの見たさにというのは考えがたい。もう表向きではお菓子を貰ったとしてもきゃっきゃとはしゃぐ子供という歳ではないからなあ。内心は東さんに貰っているということもあって嬉しくて仕方がないのだが。
「あ」
「苗字も休憩か」
「はい」
 足を運んだ先には今考えていた人がいたのでつい間抜けな声を漏らしてしまった。何ともないふりをしてみたのだが、東さんには悟られたりしないだろうか。おそるおそる、でも図々しくも東さんの近くに座らせてもらった。よかった、見ている限りはおかしいとは思われてないみたいだ。ほっとしたのも束の間、いきなり目の前に東さんの手があったので思わず後ずさると「驚きすぎだ」と笑われてしまった。貴方のだからこんなにも動揺するんですよ。東さんの手の中にはいつものようにお菓子が入っていた。受け取るとき、ほんの一瞬とはいえ指とか、手のひらに触れるのが毎度のこととはいえとても緊張してしまう。あと何回このやりとりをすれば慣れることができるのだろうか。
 今日東さんがくれたのは、ラムネだった。数粒のそれが整列し、色付きセロファンによって包まれている奴だ。小さい頃によく食べた記憶がある。なつかしいもの持ってくるなあ東さん。貰ったものをひとつひとつをつまんで食べる。
「苗字は甘いもの、まだ大丈夫なのか」
「ええ、いつも通り。おいしくいただけます」
「若いな」
「東さんだって私と同じ学生なのに、何を言ってるんですか」
 軽口を叩いている間にも東さんは私に飲み物を差し出してくる。普段は顔を合わせてお菓子をあげるとすぐに去ってしまうのだが、たまにこうやって時間があるとこうして飲み物までおごってくださるのだ。しかも、聞いてもないのに私の好きな奴だ。この人どこまでも気が利くんだろうか。一方私は何か返せているのか。いつぞや何かお返ししたいんですって言ったときも東さんは大したことしているつもりはないから、もし俺に何かしたいと思ったら後輩にしてやれと丸め込まれてしまい、結局東さんに何もできていないのだ。今日も私は厚意をただ受け取って、東さんは何てことないみたいにこの場をあとにするのだろう。それはいやだなあ。なぜだかわからないけど今日はいつもよりその思いが強かった。
「東さんはどうしていつも私にこうしてお菓子とかくれるんですか」
「どうしてだと思う?」
 いつもの会話で終わらせないように、私にしては大それた問いかけをしてみたのだが、まさかの質問で返されてしまった。何なんだろう、この人。食べ終わったラムネのセロファンを丸めたりしても、東さんが考えていることはさっぱりわからない。向こうが見えるセロファンみたいに、東さんの心も見透かすことができればいいのに。
「……いっぱい食べて太らせて、いつか食べてやろうとか?」
「お前なあ……」
 空気に耐えることができず、少々ふざけてみたのだが呆れられてしまった。成人済みの女がこんなことを素面で言うのはさすがに痛々しかっただろうか。だ、だってここ最近東さんのくれるお菓子が原因かはともかくちょっと体重増えたんだもん。東さんは向こうを見ていて。私を視界に入れようとしない。溜息までつかれてしまった。どうしよう。
「……あながち間違えてないから困るんだよな」
 もちろん、俺が言いたいのはそのままの意味じゃないからな。東さんの言葉にずっと何となく手にしていたセロファンの包み紙をつい握りつぶしてしまった。くしゃり、手の中で小さく鳴いたが私はそれどころではなかった。こちらをやっと見てくれたが安堵はできず、むしろかつてないほどの動揺がやって来た。私は東さんの言葉の意味がわからないほどの子供ではないが、それに対して上手な言葉をすぐに探し出せるほど立派な大人でもないのだ。再び私の目の前に現れた掌に驚く余裕すらない。その手が私の顔を滑る理由も、これから何をされるのかも、何もかも、東さんのせいで考えることができなくなってしまった。

20140804