大好きな夏
「真島さんお久しぶりです」
「おーミチルちゃんかぁ。いやぁ今年もあっついのぉ」
「ふふ、そうですね。やっと夏が来たって感じですね」
「せやなぁ。まぁミチルちゃんに会えるなら夏も悪くないかもしれんな」
「私もです。真島さん今からお仕事ですか?」
「いや、今日はもう何もないねん。どや、これから俺と遊びに行かへんか?」
「いいんですか?やったぁ!」
「よっしゃ!ほんなら行こか」
「真島さんどちらに行かれるんですか?」
「カラオケ行くで!ミチルちゃん歌は歌えるか?」
「え、歌…ですか。モーニング娘とかなら歌えますけど」
「アカンアカン、今はAKBの時代や!俺が教えたるからしっかり覚えときや」
「が、頑張ります」
カラオケなんて久しぶりだから何だか緊張する。それにしても真島さんってカラオケとか行くんだ。長い付き合いだけど知らなかったなぁ。ふふ、また真島さんのこと知っちゃった。
「なーにニヤついとんねん。今の自分相当アホ面やで。ヒヒヒ」
「いいんです。真島さんにしか見せないんですから」
「それもそやなぁ。お、着いたで」
カラオケに入るとまず店員さんが出迎えてくれるわけだけど、やっぱり真島さんの見た目が怖いのか店員さんの顔が引きつっていた。「お、お一人様ですか」「アホ。どう見ても二人やろが」「え、あ、申し訳ございません」というお決まりのやり取りをした後、私たちはカラオケルームに入った。早速真島さんはマイクを手に取り曲を入れ始める。それは聞いたことがない曲だったけど、真島さんが楽しそうに歌うので知らない曲でも十分に楽しめた。ひとしきり歌い終わって満足したのか、真島さんはドリンクを一気に飲み干すと今度は私にマイクを渡してきた。
「ホレ、ミチルちゃんの番やで」
「うぅ、やっぱり歌わなきゃダメですか」
「俺ばっか歌ったってしゃあないやろ。ミチルちゃんの歌、聞きたいねん」
「…わかりました。言っときますけど私、音痴ですから」
「そら楽しみやな」
3時間のカラオケタイムは終わり、私たちは店を出た。真島さんのダンスすごかったなぁ。私も色んな歌覚えとこっと。次はどこに行くんだろう?真島さんを見ると彼は意地悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。
「ヒヒヒ。俺0点なんて初めて見たわ。いやぁおもろいもん見させてもろたで」
「そ、そんな笑わないでくださいよ」
「スマンスマン。さ、次はどこ行こか」
行きたいところはあるかと聞かれ私はうーんと首を捻る。正直真島さんと一緒ならどこでもいいんだけれど…。それじゃ彼を困らせちゃうし。去年は二人で海に行ったし(私は泳げなかったけど)一昨年は確か花火大会に行ったなぁ。これまでの楽しい思い出を振り返り思わず顔がニヤけてしまった。
「まーたニヤついとる。そないに楽しいんか」
「はい。とっても」
「そんならよかったわ」
しばらく二人で歩いていると私たちが出会った場所に辿り着いた。なんてことないただの道路。ここで私たちは出会ったのだ。
「どないしたん。ボーっとして」
「いえ。ちょっとあの日を思い出したんです。あの日出会ったのが真島さんでよかったなって」
「俺もや。まさかこんな長い付き合いになるとは思わへんかったけどな」
「ふふ。そうですね」
「そういや怪我は平気なんか」
「もう。何年前のこと言ってるんですか。とっくに治ってますよ」
「いや、結構ひどかったやんか。あん時はホンマ生きた心地せぇへんかったで」
そう言った真島さんの顔は切なくて悲しそうで、私はあの時のことを思い出した。
「もう大丈夫ですよ。だからそんな顔しないでください」
「そか。それならええんや」
バッセンにでも行こかという真島さんに返事をしようとしたその時、前から黒服を来た数人の男の人達がやって来た。ひと目で分かる。多分、真島さんのお仕事仲間の人達だろう。隣にいる真島さんを見れば彼は悲しそうな顔をしていた。
「親父!こないなとこにおったんですか!」
「なんやねん。俺は今日オフや言うたやろ」
「すんません。何や緊急の幹部会とかで親父を呼んでくれ言われまして…」
「どうせ大した用やないやろ。欠席や言うとけ」
「い、いやそれはちょっと…」
黒服さん達は見るからに困っているようでこれは私と遊んでる場合じゃないようだ。名残惜しいけど真島さんとはここでお別れかな…。
「真島さん、私のことは気にせず行って下さい」
「せやけどミチルちゃん、」
「いいんです。こうして会えただけでも嬉しいんですから。また来年楽しみにしてますね」
「…絶対やで。待ってるからな」
「はい。忙しい中ありがとうございました」
笑顔で真島さんと別れたいから私は精一杯の笑みを浮かべた。真島さんはしばらく私を見つめてそれから「ほな、来年な」と言って車に乗って行ってしまった。
次はどこに連れていってくれるのかな。
「親父」
「何や」
「今、誰と話してはったんですか?それにミチルっていやぁ5年位前にあそこの横断歩道で車に轢かれたっていう女の子じゃ、」
「……」
「あん時親父が助けはったんですよね?病院に何度も通ってましたし、まぁ結局亡くなっちまったみたいですけど…もしかして親父の知り合いだったんですか?」
「俺の楽しみやねん」
「はい?」
「年に1回しか会えんあの子と遊ぶのが」
「え、何の話ですか」
「春に来てくれたら花見とか一緒に出来るんやけどなぁ」
「?」
あの日、事故現場に向かうとそこには真島さんがいた。綺麗なお花を手向けてくれていて、真島さんにまた会えたのが嬉しかった私は思わず近くに寄ったら、真島さんは驚いた顔をしながらも私に気付いてくれたのだ。それ以来、年に1回こうして彼と遊ぶのが私の一番の楽しみになっている。真島さんによれば私を轢いた犯人はすぐに捕まったそうで、多分真島さんが一生懸命探してくれたんじゃないかなって自惚れたりしている。
何度も病院に足を運んでくれて、でもその時の私はあまり会話できる状態じゃなかったから感謝の一言も言えなかった。だからあの時真島さんに出会えて本当によかった。幽霊になった私を怖がるわけでもなく、こうして毎年私と会ってくれる真島さん。お盆である今日が毎年楽しみでしょうがない。
ありがとう、感謝してもしきれないです。
いつか会えなくなる日が来るだろうけど、その時まで一緒に遊んでくれますか?
END