main | ナノ


 クールダウン



数カ月ぶりに会った愛しの彼女はソファに座っている俺の肩に頭を預けており、今は2人でテレビを見ている。正直テレビの内容なんて全然頭に入ってこないし、時折笑ったり話しかけてくるミチルを見ているほうが何倍も楽しめるってものだ。
幸せな時間。このまま時が止まってしまえばいいのに。

「大吾さん?聞いてます?」

「えっ」

ミチルのその言葉に俺はハッと意識を取り戻し、慌てて彼女に顔を向ければ怒っているのかぷっくりと頬を膨らませていた。ヤベェ、可愛い。思わず抱きしめたくなる衝動を抑えて俺はそっぽを向くミチルの顔をのぞき込む。

「悪い。何だって?」

「もういいですー」

「何だよ言えよ」

「別にこのテレビ面白いなんて絶対言いませんー」

「言ってんじゃねぇか」

そう言えばミチルはニッコリと微笑んでまた俺の肩に頭を預ける。あぁ、もう可愛いって何回言わせるんだよ全く。ずっと眺めていたかったけどまた聞いていないと今度は本当に怒ってしまうかもしれない。仕方なくテレビに集中しようとした所で、ふと気付いた。

(そういえば真島さんからDVD貸してもらったんだったな)

どこから嗅ぎつけたのか今日、彼女と会うと知っていた真島さんは俺にオススメのDVDを渡してきた。真島さん曰く『そのドラマの女優さん、六代目の彼女に似とんねん。せやから是非2人で見てほしいんや』とのことだった。一度、あの人にミチルと一緒にいるところを見られてしまい、それ以来何かと絡んでくる。それにしてもミチルに似ている女優さんか。確かに気にはなるし、それに真島さんに感想を求められてしまったから見ないわけにはいかない。

「ちょっとコレ見てみるか?何でもヒロインがお前に似ているらしいぜ」

「私に?本当かなぁ」

ミチルから一旦離れ、DVDをセットする。またソファに戻り、再生されるのを2人で待っていると急にパッと画面が映った。どうやら途中からだったらしく、再生時間は中途半端な時間になっている。真島さん最後まで見てないのか?最初から再生しようとリモコンを手にした時だった。ふいに画面に女が映り、女の顔が俺の目に飛び込んでくる。

「この人ですか?」

「多分な」

「え〜、私より全然きれいじゃないですか」

いや、お前のほうが何倍も可愛い。まぁ、確かに雰囲気は似ているがやっぱり自分の彼女のほうがいいに決まっている。それはそうと何かこのDVD引っかかるな。そもそもこれは何のDVDなんだ?ドラマってわけでもないし、バラエティには見えない。室内なのだが、この女以外さっきからキャラが出てこないし…。
2人でじっと見つめているとまたもや画面が変わった。その時、ミチルが隣でビクッと身体を揺らしたのに気付いたが俺には声をかける余裕なんてなかった。何故ならば、画面の女がいつの間にか全裸で見知らぬ男に抱かれて卑猥な声を上げていたからだ。

「なっなんだこれ」

男として一瞬、見入ってしまったが慌ててリモコンを手に取り停止しようと闇雲にボタンを押した。

「あんっあんっあんっ」

「!!??」

くそ、間違えて音量大きくしちまった!部屋にはミチルに似た女の淫らな声が一際大きく響いている。何だか自分だけ取り乱して恥ずかしくなった俺はずっと黙っているミチルが気になりチラリと隣を見ると、

「………」

今までこういったものは見たことがないのか、赤くなった顔でじっと食い入るようにテレビを見つめていた。そんな彼女に俺はリモコンの停止ボタンから手を離し、それをゆっくりとテーブルに置く。正直テレビに映っているあられもない女より、それを俺の目の前で見ているミチルの方がよっぽど興奮する。もしかして真島さんこれが狙いだったのか?だとしたら不本意だが感謝しなければならない。

(……抱きてぇな)

画面の女のように卑猥な声を上げて淫らに腰を振るミチルが見たい。そんな妄想をしながら俺はミチルの膝に置かれている手に触れようとしたその時、ミチルのか細い声が聞こえた気がして俺はピタリと手を止めた。

「…何か言ったか?」

そう声をかければミチルはさっきより顔を真っ赤にして俯いている。ま、まさか帰るなんて言うんじゃないだろうな…!

「あの、」

「…おう」

頼む。引かないでくれ!そもそもそのDVDは俺が選んだんじゃないんだ。真島さんが選んだんだよ!ていうかあの人コレを見たんだよな?ミチルを思い浮かべながら見たってことなのか!?ちくしょう、何かムカムカしてきたぜ。俺がそんなことを思っていると、ミチルがパッと顔を上げた。真っ赤な顔に目は潤んでいて俺の心臓はさっきからドキドキしっぱなしだ。

「何か…変な気分になってきました」

「えっ…」

「ごめんなさい…!気持ち悪いですよね!」

そう言って立ち上がりかけたミチルの腕を俺は瞬時に掴む。まさかミチルも俺と同じ気持ちだったとは。そのことが何よりも嬉しくて、涙目の彼女を強引に自分の方へと引っ張ると小さな声を上げて俺の胸に飛び込んできた。

「だ、大吾さん…っ」

「俺のこと考えて興奮したのか?」

「っ」

耳元で囁けばぎゅっと俺の腕を掴んでくるミチルが可愛くてもっといじめたくなった。だけどもう我慢できない。ミチルの肩を掴んで涙で潤んでいる瞳を見つめる。俺が顔を近づけるとミチルはふいと目線を逸らした。だがそれにははっきりとした拒絶反応は見られず調子に乗った俺は更にミチルに顔を寄せようとした時だった。

「きゃあ!」

「!?」

突然のミチルの悲鳴に驚くと彼女は真っ赤な顔から一変、青い顔をしてテレビを見ていた。何だろうと思い俺もテレビに視線を向けると長い黒髪の女が画面の端にひっそりと佇んでいるのがわかった。アダルトな内容から一気にホラーへと変わる。な、なんだこれ!AVなのかホラーなのか一体どっちなんだよ!!これじゃムードもへったくれもありやしねぇ!そう思い恐る恐るミチルを見れば彼女は恨めしい目で俺を見ていた。

「ちっ、違う!これには深い理由が」

「私、もう寝ます」

冷たくそう言うとミチルはこちらを振り向くことなく、さっさと寝室に行ってしまった。


やっぱあの人に関わるとロクなことがねぇよ!!







「おぅ、どやあのAV。よかったやろ?何発もやったんちゃうんか?」

「……えぇ。おかげで眠れませんでしたよ。彼女の誤解を解くのに必死で」

「誤解?何やもしかしてドン引きされたんか」

「当たり前じゃないですか!彼女、ホラーが大の苦手なんですよ!」

「ホラー?何言うてんねん。ホラー要素なんてどこにもなかったやろ」

「とぼけるのもいい加減にしてくださいよ。あの長い黒髪の女なんてホラー要素満載じゃないですか」

「長い黒髪の女?知らんでそんなん。六代目…一体、何見たんや」

「えっ、それじゃああの女は……」

「………夏やなぁ」

「ちょ、ちょっと冗談ですよね真島さん!真島さんってば!!」





END



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -