――ふと、暗がりの中で目が覚めた。 暗がりの隙間から射し込む人々が一般的に言う所謂“希望の光”と呼ばれるような光の筋に目を細めると、自分がまるで洞穴の中にいるような錯覚に陥る。 ここはどこだと自分の中に浮かび上がってくる問いに答えようと思考を巡らすけれど、まだ睡眠から覚めたばかりの脳はそれを拒否するのだ。 (……朝か) ここはどこだと自問して、その問いに答えることを、思考をあちらこちらに巡らせることを脳に拒絶されるが、それは毎日の様に行っている、所謂“習慣にされたもの”である。 毎日のこと、だから自問した問いの答えも既にわかりきっていた、ここは“自分の部屋のベッドの中”なのだと――… 頭まで被ったシーツの冷たい感触に混じる、自分以外の人間が発する熱。 昨晩、誰かと夜を共にした記憶はない。 (由夏か…?) 妹の存在が頭の中にぽつりと浮かび上がってくる。 妹は時たま、恐い夢を見た時や孤独感を強く感じて眠りにつけなくなった時、兄である春のベッドの中にそっと潜り込んでくるのだ。 今まで自分のベッドに潜り込んで来たことのある人は由夏しかいない。 だから自然と、自分のベッドに潜り込み、すやすやと寝息を立てている人物は妹の由夏であると、自分の思考が決めつけていたのか。 「由夏…?」 冷んやりとしたシーツの上を這うようにして滑らせた右手が、自分と同じベッドに潜り込んですやすやと寝息を立てている自分以外の何者かの手首を掴む。 「由夏…遅刻するぞ」 未だに上手く作動してくれない思考に少しばかりの苛立ちを感じながら、妹が頭から被っているシーツをふわりとめくり、妹の、まだあどけない寝顔を柔らかな日の光の下へ曝け出す。 「起きろ、ゆ――…」 ふわりふわりとシーツの上を流れる暖かな髪が日の光を周囲の空気に煌めくように拡散させて――否、 寝息と共に上下する焦げ茶色に染まった髪がカサカサとシーツを滑っていく。 レンズの入っていない透かしの黒ぶち眼鏡にだらしなく顎を伝う唾液、まだ幼い寝顔は紛れもなく千賀だった――― |