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ゆかり兄さんは「面白いからもうちょっと」だなんて言って、壁に突き刺してあるナイフやフォークを抜いて身動きの取れない兄さんを助けている私に向かってつまらなそうに口を尖らせているけれど、それにはあえて気づいていない素振りをした。


兄さんは壁に貼りついた身体を解放されると、散々兄さんのことを笑っていたゆかり兄さんに文句を言いにいった。




「―――…」

こんこん、と軽いノックを二回。応答はない。

「悠月兄さん」

やはり来たかという風に、私の姿を視界に納めた悠月兄さんは、読んでいた本を閉じテーブルに置いた。

「今度は壁に貼り付けるなんて、大胆なことをしましたね」

実の兄妹である兄さんを、ケーキを食べるためにテーブルに用意されていたナイフやフォークを使って壁に貼り付けたことを、悠月兄さんに対して文句を言いに来た訳ではない。

私は苦笑いを浮かべて、悠月兄さんよりも年下である私がこんなことをするのはおかしいと思うけど、やんちゃな、悪戯をした小さな子供を見るような目を悠月兄さんに向ける。

「兄さんは悠月兄さんのこと、本当に心配してるから千乃姉さんのことになると頑固でワガママになっちゃうけど――…」

そこまで口にすると、「もうわかっているから」とでも言うように、悠月兄さんはまるで私におまじないをかけるように私の頭に手を置いて、ぽんぽんと優しく撫でてくれる。

私がまだ幼かった頃、転んで泣いてしまったときは、兄さんががむしゃらに私の頭を撫で回して元気出せって、泣くなって言ってくれたけど、それとは違う、甘くて優しい。

ダークブラウンの髪を彩るストロベリーピンクのリボンのように、ほわほわと暖かい気持ちになる。

「兄さんはきっと、悠月兄さんが千乃姉さんを大切に想っていること、ちゃんと理解してますよ

だけど兄さんは、そのことをなかなか認めることができないんです、ただそれだけなんです」


私の頭から離れていく悠月兄さんの暖かな手に名残惜しいような視線を向けながら私はそう口にした。