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自分は不完全な人間だ。
“普通”の人間よりも、周りが予想する以上に脆い。中途半端に魔物の血が体内を巡るが故にそのものが発散する魔力に、普通の人間と同じ身体を持つ自分は耐えることができないのだ。自分自身の脆い身体を嘲笑うことしかできない自分を唯一羨んでいたのが千乃という存在だった。

千乃は自分から声を奪うことを、自分に提案した。
自分はそれを承諾した。
そうすることで、双子である自分達が初めて平等な地位を持つことができるから――…

その行為は、自分の声を千乃が奪うというこの行為は“自分の持つものを削ぐことで千乃のハンディキャップを無くす”と言うこと。

自分達のただの事故満足なのだ。


(千乃は戻ってくると約束してくれたんだ)

「…――戻ってくる?
あいつは悠月の声を奪って逃げたんだぞ!?
そんな飄々とこの屋敷に帰って来られるような立場じゃねえんだよ!!」

千乃は自分の元に戻ってきてくれると約束してくれたんだ、だから、必ずこの屋敷に戻ってくる。

けれど伊織はそれを否定するのだ。


(どうして否定する?)


暖かな午後の一時を楽しむための準備が整っている上品な白いテーブルクロスの敷かれたテーブルの上、
縁に花の絵柄が描かれているティーポットにティーカップ、それに受け皿が綺麗にまとめられており、その近くには甘いケーキを食すために揃えられたフォークやナイフがバスケットの中に納められている。

ほこりがつかないようにナプキンに包まれているそれらを、いくつか手に取り、悠月は伊織にゆっくり近づいて行く。

「―――ゆ、悠月?」

悠月が伊織に向けて歩を進めれば、それに伴って先程興奮して悠月に向かって乱雑に進めた歩を、伊織は戻して行くのだ。

その動作を繰り返すこと数回、伊織は背に硬く冷たい壁の感触を感じ、後退りしていた歩みを止めざるを得なかったのだ。