「ねえ」 自分を呼ぶ声。 短く切られた音は紡がれた言葉の余韻を残さない。 まるで自分を責め立てているような、真っ直ぐとしたその言葉を、聞こえないふりをして聞き流すことさえできたのに。 素直に振り向く自分が馬鹿馬鹿しく思える。 他人から言葉ばかりを受け取って、否、受け止めざるを得ないのだけど、自分からは何も発信できないことに少々苛立ちを感じることにもう慣れてしまった。 「何で鳥籠だけ置いてあるの」 従兄弟である彼(名は伊織と言うけれど)が指差すその先には窓枠に置かれた鉄製の鳥籠がある。 その中に鳥の姿は無いし、鳥が止まるための小枝が引っ掛けてあるわけでも無いし、鳥が餌を食べるための小箱が置いてあるわけでも無いのだ。ただの鳥籠。 (別に…) 悪態つくように呟いてそっぽを向く。 けれど空気は振動しない。伊織に自分の言葉を届けてはくれない。 「悪い、もう一回!! できればゆっくりと頼む」 自分の唇を上手く読むことが出来なかったようで 伊織は真面目な顔――と言うよりかは、意地でも、と言うように眉間に皺を入れて自分に人差し指を立てて願い出ているけど、自分は伊織の願うような行動を取るつもりはなくて (……) きっと睨んでそっぽを向いた。 伊織はつまらないと言うような顔をして、力の入った肩をため息を吐き出すと同時に緩めている。 「まだ気にしてるの?」 |