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綺麗事並べたら綺麗になれますか


ごめんなさい


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


我慢できなかった。
どうしようもなかった。
もう、繕うだけの言葉は出せなかった。




『行かないでください独りにしないでくださいもう僕には貴方しかいないんです』




『だって、ねぇ僕貴方を愛しているんです』




言ってしまった。
なんか意味わかんなくなってたんだ、ぐちゃぐちゃしてて、傷だってまだ塞がってないのに行くなんて言うから。


涙が止まらない。目の前で驚いていた顔が何度もリピートされる。



「っふ、うぇっ、ひ」



もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌われた絶対に、気持ち悪いとか思われたに決まってる。



「っぁあああっ、ふぇっ、えっ、、うぁあぁぁっ」



閉めきった病室で声をあげて泣く。
主の消えたベッドはとっくに冷えて、無理矢理剥がされた点滴の針は無造作に投げ捨てられ、床を濡らしている。




消えてしまいたいと、素直にそう思った。




声も涸れるまで叫べば、声帯は無くなるだろうか。
涙も枯れるまで泣けば、目は溶けて見えなくなるだろうか。
何も考えられなくなれば、この醜い身体も全部壊れて消えるだろうか。



偽り続けていられたらどんなに良かったのか。
敬愛で済まされる言葉を紡ぎ続けていれば良かったのに。



「っ嫌い、嫌い嫌い嫌いっ、大っっ嫌いだっ




僕なんか、なんでっ、いまさら…っ」




こんなことになるくらいなら、あの時死んでしまえば
あの人に迷惑をかけることだって





「もうっ……やだぁあっ…」
















「…――――俄雨っ!!」





「!?」





乱暴にドアが蹴破られる音と名前を叫ばれる声が重なって

優先的に拾った音は彼の声。




「ら、いこ さ、」


「俄雨っ…」


「、ゃ、だめ、です来たら、」


「何故?……あぁこんなに泣いて」



目尻を擦る優しい指。温かいそれに身震いして、歪む視界に映り込むピンクの色が大好きで。



「っやだ、」


「俄雨?」


「いや、ぁあああっ、きらい、き、らいっ」


「俄雨っ」


「っう、やぁっ、も…やさしく、しな、ぃ…」



で と、発した言葉は強引に重なった口内に消えた。



「ふ、…っぁ、」



暴れるものの強く強く抱きしめられて、唾液で溶け合いそうなほど深いキスをされて。



腰が砕けて椅子からずり落ちそうになった頃、銀糸を引いて離れた唇。

その間だって止まってくれやしなかった涙のおかげで、やけにしょっぱい自身の唇を呆然と撫でれば、雷光さんは僕の肩に顔を埋めた。



「…優しくしないでなんて、言わないでおくれ…」



響いた声はあまりにも弱々しく、抱く腕は縋り付くようで。



「愛している…と、言われて嬉しかったんだよ私は」



「へ……」



聞き違えたのかと返答が出来ない。

信じられなくて。




「う、そ…」


「嘘じゃない」


「うそ、だっ」


「嘘じゃないっ」



急に体を離され、向かい合った彼に眼前で













「愛しているよ」









「…っ、ふ、ぇ」



ああもうなんで。
こんな僕を。
嬉しいなんておこがましいのに。





「お前だけを…誰でもない、俄雨だけを、愛しているよ」



「らいこ、さん」



「独りで泣かせてしまってすまないね…これからは、ちゃんと私の腕の中で泣いておくれ。でないとどうすればいいのかわからなくなってしまう


独りで泣くお前の涙を止める術など、私は知りたくないよ」




諭すように話す雷光さんの顔が、また歪む。胸の奥が満たされたように温かく滲んで、溢れた涙は嬉し涙。


伝う雫をキスで拭ってくれた雷光さんは、僕の顔を見て初めて笑って





「よかった、やっと笑ったね」



そうおっしゃって額に口づけた。












壊れてしまった心の枷。

ずっとずっと、悟られないように、醜い自分を綺麗な言葉で覆って。


じゃないと、嫌われてしまう置いて行かれてしまうと




でも、違うんですね





「もう、いいんですね」




ね、雷光さん。




呟いた俄雨をまた抱きしめて



「…まったくいい加減自分を卑下する癖を直しなさい」



そんなのずっと前からいいに決まっているのだから。















-綺麗事並べたら綺麗になれますか-
(醜いなんてとんでもないよお前は初めて会ったときからずっとずっと綺麗なままなのだから)






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